中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

企業の機関設計である指名委員会等設置会社の導入企業数が少ない理由

先日、あるシンクタンクの外部レポートを見たところ、米国企業と日本企業の取締役会の運営の議題についてのアンケート調査結果がありました。

日米ともに売上高が約5,000億円以上の大手企業のアンケートですが、米国企業は、戦略策定に多くの時間が割かれている一方で、日本企業はこの領域の討議が弱く、執行サイドに日常の業務執行権限は委譲して、取締役会で戦略策定に時間を費やす必要があることを課題として考えている企業が多いという結果でした。

今回は、企業の機関設計について、指名委員会等設置会社制度を中心に少し書いてみたいと思います。

ご存知の方も多いと思いますが、米国の取締役会は監督機能に特化しており、業務執行は執行部門が行うことになっておりますので、必然的に取締役会は戦略策定と執行の監督が中心になります。一方、日本企業の多くは米国企業と異なり、執行と監督が分離しておらず、取締役が日常の業務執行を兼ねています。

しかし、従前より、取締役会の機能として監督と執行が一緒になると、自分の執行を自分で監督することになり矛盾が生じ十分な監督が出来ないこと、また、環境の変化の中、執行には益々スピードが要求されるところ、執行に十分に専念できないという課題があげられています。

これに対して、2003年頃に会社法で委員会等設置会社が設置され、取締役とは別に会社法上の役員として執行役が設けられ、日常の業務執行は執行役に委任し、取締役会は重要な業務の決定を行うとともに、執行サイド(執行役)の業務執行の監督に専念することとなりました。

その後、会社法の改正があり、委員会等設置会社は、現在は、指名委員会等設置会社となっていますが、この指名委員会等設置会社は東証全体で80社程度しか導入しておらず以前として少ない状況にあります。

しかし、前述のように、指名委員会等設置会社以外の会社であっても、業務執行のスピードアップのため、執行の多くを執行サイドに権限委譲して取締役会は重要な意思決定と監督に専念したいというのが各社の最近の動きかと思います。

では、そうであれば、法的に執行への業務執行が委譲される指名委員会等設置会社に移行すればよいのですが、どうして導入企業数が増えないのでしょうか。

この点は、執行権限が奪われることの社内での権限を巡る綱引きと社外取締役の確保が困難である点にあると思います。

私自身は、当時の勤務先がたしか2004年頃に監査役設置会社から指名委員会等設置会社に移行したのですが、その際の商事法務担当として、当時、ソニーオリックスHOYA等の例を研究し、指名委員会等設置会社の移行作業の実務を全面的に担当した経験があります。

当時、取締役会の業務執行の決定権が執行サイドに法的に移行することから、取締役会の機能が監督という、いわば「閑職」になるということで、当時の社長と取締役会の議長である会長の人事の問題もあり、揉めた記憶があります。

指名委員会等設置会社に移行する企業が少ないのは、こうした執行の権限の点で社内の綱引きがあり、つまり、法的にも業務執行が執行サイドに完全に移行してしまうことの社内での抵抗が理由にあると考えます。

これに加えて、指名委員会等設置会社で必要になる指名・報酬・監査委員会の委員の過半数は、社外取締役で構成されるところ、社外取締役の人選に苦労するという点もあるように考えます。委員会を構成するのであれば2名以上の社外取締役が必要です。報酬委員会、指名委員会といった組織の設置が必要になり、各委員会は半数以上の社外取締役が必要になり、この委員会で役員の報酬・役員人事を決定することになりますので、これに抵抗を示す経営陣も多いと思います。

以上の2つが指名委員会等設置会社の導入が進まない大きな理由のように思います。

最近、東証の指導で複数の社外取締役の設置が義務化される動きにある中、社外取締役の人選が十分でないという声も聞かれます。とすれば指名委員会等設置会社も大きくは増えないかも知れません。

しかし、売上高が5,000億円以上もある大手企業であれば社外取締役の人選で苦労することもそれほどないとは思いますので、権限を大きく委譲して経営のスピードをあげたいのであれば、指名委員会等設置会社に移行するのが極めシンプルであると思います。

2004年頃に指名委員会等設置会社への移行実務を担当した者として思うところを書いてみました。