前回、第1回で政策保有株式に関する資本市場の動きをご説明しました。結論としては、政策保有株式の縮減は今後も資本市場から強く求められる事項であり、物言う株主から指摘を受け、騒がれる前に縮減する必要があるということでした。
本日はここから発展する話として、政策保有株式の縮減により「安定株主比率が低下すると不安であると」という経営トップの方の疑問について検討したいと思います。政策保有株式を売却することと安定株主が減るということは、持合い株式のケースで、A社がその保有するB社の株式を売却することで、B社もその保有するA社株式を売却することに繋がり、結果、A社の安定株主が減るということです。持ち合いの解消ということですね。
では、このように安定株主が減少すること、極端に言うとゼロになることは企業にとって本当に困ることなのでしょうか? 私は、安定株主などいなくても企業は実はたいして困らないと考えます(安定株主とは、株主総会において会社提案議案に対して、何ら文句も言わずに「賛成」表示をする株主をいいます。取引先銀行、取引先など会社と特定の関係があり、株主を保有している株主です)。
企業の株主総会の議案はどの程度の賛成率で可決されているかを考えましょう。これは各社によって異なりますが、概ね80%台後半から90%台で可決されているのが通常かと思います。安定株主比率は会社によって当然異なりますが、20%程度と考えると、非安定株主の議決権行使での賛成率はかなり高いということになります。
機関投資家というと、会社提案議案に対して積極的に「反対」の議決権行使をする印象を持たれている経営トップの方も多く、特に自社の株主構成で機関投資家の保有比率が数パーセント程度しかない中小型銘柄の経営トップの方は、そのような不安を持つ方も意外に多いように思います。
しかし、機関投資家は基本的には会社提案議案に賛成する場合が多いと考えてよいです。各社とも議決権行使基準を有し、これに基づいて議決権を行使しており、この基準に抵触しない限り「賛成」です。「反対」するケースは、例えば取締役選任議案であれば、ROE5%未満が3期連続する場合、在任年数が20年を超える場合などの例外的なケースとなっています。このようなケースを除いて、機関投資家は基本的に会社提案議案には賛成するのです。また、個人株主について言えば、彼らは素人集団ですので、会社提案議案には何も考えずに賛成します。
とすると、安定株主が存在しないことによる議案の可決におけるマイナス影響は、実のところかなり小さいと言えるのです。勿論、個人株主は議決権行使しない場合も多く、また、機関投資家が「反対」の議決権行使をする場合もあります。しかし、かといって議案の賛成率が50%ぎりぎりで可決されるということは通常想定しにくいのです。
これに対して、「通常の場合はそうだとしても、もし、企業に大きな不祥事があったり、業績低迷が連続している場合は安定株主がいないと困るだろう」という質問もあるかと思います。この場合は、どう考えたらよいでしょうか? この点は次回以降に説明したというと思いますので、暫くお待ちください。