中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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1980年代の米投資家ブーン・ピケンズと小糸製作所の攻防

先日のブログで「1980年代のブーン・ピケンズ による小糸製作所の買収の件も今の時代に起こっていたら、ブーン・ピケンズに賛同する株主も大勢いたかも知れません」と記載しましたが、本日はこのブーン・ピケンズ氏による小糸製作所株の買占めの攻防の件を簡単に説明します(20代、30代の方に馴染みがないかも知れません)。2年近く前にもブログで一度紹介しましたが、文章内容を加筆等をして再掲します。

ブーンピケンズ(2019年11月に91歳で死去)は、1989年から1991年 にかけて、小糸製作所筆頭株主として、自らの推薦する役員選任などを提案し経営介入を試みるなど攻防をした人物で、グリーンメーラーと呼ばれています。小糸株式買占めの真意は、小糸株のトヨタ自動車による高額での買い取りであったと言われています。私が大学時代に会社法の勉強をしていた当時に会社法の本でも事例として掲載されていました。経緯は次のとおりです。

  •  1988年2月に麻布建物から、同社が小糸の株式を大量に保有しており、当時の株価2,000円を大幅に上回る高値での買取を小糸に要請し、同年5月には、麻布建物の渡辺喜太郎社長が「小糸が株式を引き取らないのであれば、トヨタ自動車に買うように言ってほしい旨」を小糸に打診し、小糸は拒否
  • 1989年3月末にブーン社が小糸の3,240万の名義書換を申請し、20.2%の株式を取得。同年4月に小糸にブーン社の代表であるブーンピケンズは、以下を要求 : ①小糸株式を20%保有しているトヨタと同じようにブーンサイドから3名を小糸の取締役に選任すべき ②筆頭株主として配当の増額を要求する ③日本の自動車メーカーは系列取引を改めるべき ④小糸の詳しい財務・会計データを入手したい
  • 小糸は日本で最大手の法律事務所である西村あさひ法律事務所をリーガルアドバイザーとして起用
  • 1989年6月に小糸の定時株主総会が開催。3時間17分に及んだが、ピケンズの提案する取締役3名の選任は否決。その後、ピケンズは1990年3月に26.4%の株式保有に至り、小糸は4月に特別配当として1株2年増配し、年10円とすることを公表、その後、6月の小糸の定時株主総会で株主提案を巡る攻防があったが、ブーン社の提案は否決
  • 1991年4月に米ワシントンポストに「オーケー・トヨタ、オーケー・コイト。私はあきらめる」というピケンズの徹底宣言が出された。1991年の定時株主総会にはピケンズは出席せず、終結

この攻防の中で、1990年12月に金融商品取引法が改正され、「5%ルール」が施行されました。これまでは、5%ルールがなかったのでブーン・ピケンズによる株式取得が外からは分からなかったのが問題とされ、5%ルールが制定されたようです。当時は、ピケンズの提案は黒船来航としてオールジャパンで対抗したのかも知れませんが、同じような提案は、当時から20年が経過した現在であれば、ピケンズの提案は通ったかも知れません。小糸への提案で、系列取引の是正を求めている点などは、今で言う政策保有株式の縮減のことです。

古いですが、1987年12月に「ブーンーわが企業買収哲学」という書籍が出ているようですので、アマゾンで購入して読んでみたいと思います。