中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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TBSドラマ「半沢直樹」について専門的な視点から解説 (第1話より)ー機密情報の取り扱いがあまりにM&A実務とかけ離れているのですが・・

 

本日より、「ドラマ半沢直樹」について、専門的な視点から解説をしていきたいと思います。

第1話では、電脳雑技集団という会社が上場企業のスパイラルに敵対的買収をしかけようとしています。株式公開買付(TOB)の手法で買収をする模様で、半沢直樹の勤務する東京セントラル証券が電脳雑技集団側のアドバイザーになろうとしているシーンがあります。

本日は、M&A実務とあまりにかけ離れている点について解説をしてみたいと思います。結論からいいますと、上場企業のM&A案件という超機密情報に関する扱いのシーンが実務では100%ありえず、あまりにめちゃくちゃかと。

まず半沢直樹氏が、電脳雑技集団側への提案書について、東京セントラル証券のガラス張りの部屋でメンバーと議論をしているシーンです。会議室にはメンバーしか入れませんが、会議室の外にいる社員が会議の内容を外から自由に見ている点がM&A実務では100%あり得ません。

上場企業を対象とするM&Aは機密案件ですので、投資銀行の実務では、部門長と限定された数名の関与メンバーで極秘に進められます。同じ部内とはいえ、案件の入口段階で部員全員に知らせたり、詳細を見せるなどということは絶対ありません。上場企業のM&A案件が外に漏れたら、投資銀行の社長の責任問題にさえ発展します。上場企業のM&Aは、株価に大きな影響を与えるため、アドバイザーを獲得する前の段階から極秘裏に進められるのです。

次に、半沢直樹と部下の男性が居酒屋で、電脳雑技集団とスパイラルの社名の入ったプレゼン資料を広げて見ているシーンがありますが、あれも100%あり得ません。

M&A案件の提案資料には、具体的な社内を入れることは通常ありません。資料が万一、外に出た場合を想定して、個社名を書くことはせず、A社、X社とか、全然関係のない名称(私が10年以上前に担当したある案件では「Mikado」「Takeshi」等の案件と全然関係のない言葉を使用)を資料に記載します。

また、居酒屋で、投資銀行員同氏がM&A提案資料を広げて見ることも100%あり得ません。そもそも会社の業務の資料を居酒屋で広げることも普通はないでしょうが、顧客に提案する上場企業のM&A案件の資料を広げるなど100%ありません。あのシーンで半沢直樹はクビものです。

最後に、半沢直樹の銀行の同期が、子会社とは言え別会社に勤務する半沢直樹に銀行の極秘情報を漏洩しています。これは犯罪行為であり、これもまずあり得ません。そもそもM&A案件でなくても、機密情報を漏らすことは、職務規則違反であり、また不正競争防止法に違反します。つまり犯罪です。まあばれなければ、何も問題はないのですが、犯罪行為の片棒を担ぐことを同期の方がするインセンティブはどこにあるのでしょうか。男性同士の恋人といった親密な関係、弱みを握られている、金を貰っているといった特殊な関係にない限り、銀行の同期が出向先の同期に情報漏洩はしません。

ということで、肝心の敵対的買収の話に入る前に、本日は、あら探しのよう内容になってしまいました。あまりにM&Aの現場の実務ではありえない設定に少しびっくりしました。ドラマなので脚色されているのは当然ですが、M&A実務ではあり得ない内容になっているのはいかがなものかと。

ドラマの制作サイドの方は、そもそも上場企業のM&Aなどについてはど素人で、知識・実務経験など全く持ち合わせていないのが普通ですが、投資銀行などのプロは監修していないのでしょうか? ドラマとは言え、ある程度は実態に即した方がよいような気がしました。

ということで、本日はあまりに実務からかけ離れているお粗末なシーンをつい指摘してしまいましたが、次回からは、電脳雑技集団のTOBの内容やスパイラルの買収防衛などについて、真面目に実務面の解説をして行きたいと思います。