中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

クローバック条項(役員の業績連動報酬の返還)は今後増えるか

先日の日本経済新聞でクローバック条項の記事がありました。

武田薬品工業シャイアーの買収に関連して「武田薬品の将来を考える会」が色々と活動していますが、同会が株主提案として、クローバック条項を定款に規定することを武田薬品に求めたようです。

クローバック条項とは、支給済の業績連動報酬を会社に強制返還させる仕組みで、投資に伴う大きな損失、大幅な下方修正、不祥事が発生した場合に適用できるとされています。 米国では、製造業の90%が導入しているようです。

新聞の記事によれば、これを導入することで、経営陣は経営判断に躊躇することになり良くないという意見もあるとたしか書かれていました。

 会社法上の役員には経営判断の原則というものがあります。企業経営の判断は、「不確実かつ流動的で複雑多様な諸要素を対象にした専門的、予測的、政策的な判断能力を必要とする総合的判断」です(西村あさひ法律事務所の「M&A法大全(下)(全訂版)」より引用)。

株主の利益を図るには経営陣は果断な経営判断を行う必要があり、結果、判断に誤りがあり会社に損失を与えた場合に責任を負うとなると経営判断に萎縮するため、通常の経営判断の下で損失が発生しても法的責任は問われないというものです。

とすると、会社法上の責任は負わないが、報酬が減るということは、実体としては経営判断の原則が適用されていないに等しいのでおかしいということもいえそうです。しかし、一方で、経営判断をして大きな損失が発生した場合には報酬を返還せよと株主が言いたいことも分かります。

業績連動報酬が最近強く言われているのは、役員であれば、株主と同じ目線で経営に立つべしというのが発想の根底にあります。

会社の業績が悪く当期純利益が悪化すると株主の配当が減る可能性があります。経営の意思決定を行う主体(=経営陣)と意思決定の影響を受ける主体(=株主)は利害を共有することが必要ですが、業績が悪くても株主だけが影響を受け、役員のお給料が固定報酬として減らないのはおかしい。そこで、一定程度は、業績にお給料を連動させよということです。これが業績連動報酬の背景になります。

 日本では、アサヒグループHDコニカミノルタヤマハ横河電機、野村HDなどがクローバック条項を導入しているようです。 

武田薬品株主総会でクローバック条項の導入を求める株主提案が決議されると、今後、クローバックを役員報酬に入れることを求める動きが増えるかも知れません。

世界経済の悪化の影響から、業績も低迷し株価もぱっとしない以上、TSR(総株主利回り)の観点から株主の不満も高まっているかと思います。

クローバック条項の株主提案の際に、これを否決するための株主の賛同を得るため、企業は政策保有株式などを売却して、配当を増やして、株主の不満を緩和する必要があると思います。

(最後に話は変わりますが、文章中で少し触れた「西村あさひ法律事務所の『M&A法大全(全訂版)』」ですが、上・下の2巻が出ていますが、公開買付規制、買収防衛策をはじめM&Aに関することが詳しく書かれており名著です。余談ですが、同事務所の弁護士は、とても頭の優秀な方ばかりと私は日頃感じております。M&A、投資の業務に少しでも関わりのある企業の実務担当の方は、お手元においておくと便利かと思います。)