中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

企業価値向上表彰50社の公表と資本コストの整理のすすめ

昨日、東証企業価値向上表彰の50社の公表を行いました。

これは、毎年、東証が実施しているもので、資本コストをはじめとする投資家の視点を深く組み込んだ経営の実践を通じて、高い企業価値の向上を実現している上場会社を表彰する制度で2012 年から実施しています。

今回の表彰50社の社名は公表されており、大手企業では、住友化学、クボタ、ダイキン工業、味の素、明治ホールディングスなどがありますが、中小型銘柄企業も多く公表されています。

東証の説明によれば、これら50 社は、過去5 年間にわたり自己資本コストを上回るROE を安定的に計上しており、かつ、経営目標や資本コストなどを確認する選考アンケートの結果及び資本コストを上回る企業価値の創出額等の算定結果が優れた企業として選定したとのことです。

表彰に先立つ企業に対するアンケートでは、① 自社の資本コストを認識し、実際に数値を算出しているか、② 資本生産性を踏まえた経営目標を設定しているか、 ③新規投資及び事業撤退の基準をもち適用しているかを重視しているようで、「資本コストを上回る企業価値の創出額」は、所定の算式により算出した「① ROA-資本コスト」又は「② EP(Economic Profit)」で評価しており、本年度における選抜のボーダーラインの目安は、次のとおりとのことです。

ROA-資本コスト:9.7%程度 ② EP(Economic Profit):480 億円程度

ROA-資本コストが9.7%というのは非常に高い数値かと思います。資本コストを仮に7%とするとROAが17%近いということです。ROAの分子の数値は分かりませんが、おそらく事業利益のような気がいたします。

このように資本コストを明確に意識して経営を行っている企業が表彰の対象になったようです。

WACC等の資本コストについては、改訂コーポレートガバナンス・コードと同時に制定された「投資家と企業の対話ガイドライン」においても指摘されており、今後は、企業の投資の意思決定において、資本コストについての考えが機関投資家から求められることと思います。

しかし、私の感覚では、大手企業でも総合商社、メガバンクなどを除いて資本コストを明確に理解している企業はかなり少ないように思われます。資本コストと株主資本コストの違いも分かっていない企業が多いのではないでしょうか?

最近のガバナンス改革の動きで株主資本コストの言葉は社内資料で使ったりしても、ROEやROICがまずありきで、単純にこれを下回る数値として資本コストを適当に捉えており、仮に目標ROEが7%であれば、「当社の資本コストは5%又は6%である」という具合に考えている企業が意外に多いのではないでしょうか。非常にお粗末な話です。

ではどうすれば良いかということですが、資本コストや株主資本コストが何であるのかを理解できていない企業のIR担当や経営企画担当の方は、今後、機関投資家から説明が求められることを考えると、大手証券会社の投資銀行部門や大手会計事務所に一度株主資本コストのレクチャーをお願いするのが1つの手段として良いかと思います。

ただし、資本コストをどう考えるかは機関投資家によって算式が異なることもあるので、レクチャーにより資本コストを理解・整理した上で、機関投資家との対話を通じて、資本コスト数値の見直し・レビューをし、資本市場から見た自社の資本コストを把握するということが必要になるように感じます。

その上ではじめて自社の目標とすべきROE、ROICが設定できるということになります。まず、ROEやROICが最初にありきではないので、そのあたりをきちんと理解しないとなりません。