中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

資本コストと株式時価総額への意識が今後一段と求められます - 伊籐邦雄教授の対話記事から

1月23日付けの日本経済新聞で伊籐レポート2.0をまとめた一橋大学の伊籐邦雄教授の日本経済新聞の記者との対話形式の記事がありました。要点だけ書きますと次のような内容です。

1.ROE8%を日本企業は超えたが、これは売上高利益率が改善したことが要因。次は
収益性が資本コストを下回る部門を全て見直すべき

2.PBRを日本企業は高める必要がある。日本企業の平均PBRは1倍前後であるが、米
国は2倍台ある。この差は人材への投資や研究開発の規模の違い。目に見えない資産から高い価値を生み、市場の評価につなげる。米企業の株価が高いのはこれが出来ているから。

今回はこれについて少し解説したいと思います。

1の点について

伊籐レポートではROE株主資本利益率)8%を要求していましたが、ROEは、売上高純利益率×総資本回転率×財務レバレッジで算出されるところ、最近の日本企業は業績好調で利益が増えているため、売上高純利益率が向上し、結果、ROEは改善したといえます。

今度は、企業全体の業績をブレイクダウンして、各事業が資本コストを上回っているか
を検証すべしということです。

収益性についてはROIC(投下資本利益率)と資本コストを比較することになると思います。ROICとは、事業別の投下資本に対する営業利益率ですが、対象事業の営業利益÷投下資本(%)で算出されます。

投資資本とは、企業によって定義は異なりますが、現預金、運転資本及び固定資産といったことかと思います。一方、資本コストとは、企業の当該事業について、会社債権者、株主が期待するリターンです。ROICは、この資本コスト、つまり金融機関と株主の期待収益率を上回る必要があるということです。

多くの日本企業は、会社債権者である金融機関からの負債コストは、PL上も支払利息として費用計上されるため明確に認識していますが、株主資本コストは、PL上は現れないので明確に認識していないことがとても多いといわれています。あらためて、企業は、金融機関と株主双方のコスト(併せて資本コスト)を意識することが今後必要になろうかと思います。

 

2の点について

PBRは何度かブログでも書いていますが、株価純資産倍率で、株式時価総額÷純資産(倍)で算出されます。

まずバランスシート上は、純資産(=資産の部-負債の部)が株式価値ということになりますが、このバランスシート上の純資産の何倍が株式時価総額であるかということです。バランスシートには、企業の人材、ブランド、自社で創出した知的財産権といった無形資産は計上されていません。

一方、株式時価総額にネットデットを加えたのが企業価値であり、企業の無形資産も加えた企業全体の価値になります。逆からいいますと、無形資産を加えた企業価値からネットデットを控除したのが株式時価総額になりますので、無形資産が加味されている分、株式時価総額はバランスシート上の純資産額より本来大きくなるはずです。

株式時価総額が高いほど、企業のブランドや人材が市場で高く評価されているといえます。伊籐教授の記事のコメントによれば、日本はこの無形資産の評価が低いということかと思います。

以上、少し分かりにくいかも知れませんが、簡単ですが解説になります。

伊籐氏はコーポレートガバンス改革の旗手として活躍されている方ですので、こういう意見が出ると、税制改正の動向ともあいまって、不採算事業のスピンアウトを投資家が求める傾向が強まると思われます。

だいぶ以前に証券会社に勤務していたときに、ある中堅規模のクラスの上場企業のトップと面談をした際に、「株価は毎日変わるので意識などしていない」と言っていたことを先ほどふと思い出しましたが、そのような考えは大きな誤りであり、株価がいまいちの企業の経営トップは、意識を高める必要が一層強くなるのではないでしょうか。