中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

アルパインに対する香港の投資ファンドのオアシスマネジメントの株主提案が否決(前回の続き)

アルパインに対する香港の投資ファンドのオアシスマネジメントの株主提案が否決されたことは前回書きましたが、株主提案の賛成率が30%以下であったとの日経新聞の記事がありました。

この記事を受けて、EDINETを見たところ、アルパイン株主総会の議決権行使率の結果報告に関する臨時報告書を出しており、1株325円とする大幅増配の株主提案の賛成
率は29%でした。

アルパインの2018年3月末における外国人株主比率は約40%で、ISSも株主提案に対して賛成推奨レポートを出しているので、少なくとも30%を超える外国人の賛成は得られたのではないかと以前にブログで書きましたが、反対した外国人投資家もかなりいたようです。

これは推測ですが、アルパインとしては会社提案議案の賛同を得るべく、外国人投資とのエンゲージメントを積極的に行ったのではないでしょうか。

本年の株主総会における株主提案は大変多いですが、株主提案が可決されたという事例はやはりまだまだ少ない模様です。ただし、株主提案の増加が今後益々高まることは確実で、上場企業は今回のアルパインのようなケースが自社にも起こり得るということを認識することが必要かも知れません。

 

企業価値算定における余剰現預金の考え方(ブログに頂いたコメントの回答)

本日は年休取得で休みのため日中にブログを更新します。

先日、企業価値評価における現預金の算出基準についてコメント質問を頂きました。ありがとうございました。

ただ、この「はてなブログ」での返信の方法が未だによく分かりませんでしたので、コメントのご質問に対する返信という形でここで回答したいと思います。

DCF法で算出する場合には、将来の税引後フリーキャッシュフローをベースに算出した事業価値に非事業用資産として、現預金等を足すことになります。改訂コーポレートガバナンス・コードでは、政策保有株式の縮減が求められているので、投資有価証券もこれに加えることになると思います。念のため次の式になります。

企業価値=事業価値+非事業用資産(余剰現預金+投資有価証券)
株式価値=企業価値-有利子負債

この場合の余剰現預金をどう考えるかということですが、必ずしも確立された考えはないように思いますが、売上高の0.5%~2%を超える現金を余剰現預金と見なすという経験則があるといわれております(「企業価値評価実践編」(鈴木)より)。

また、「マッキンゼー&カンパニーでは、売上高の2%を上回る現金は全て余剰資金と見なすこもあり得るとされている」(「企業価値評価の実務」(プルータスコンサルティング)と書籍などには書かれています。

個人的には、余剰現預金は、個別企業によって捉え方は異なると思いますが、ざっくりとした簡易的な企業価値算定においては、売上高の2%を超える現預金を余剰現預金と見なすことでよいように考えております。

ブログの掲載記事につきましては、過去にもいくつか質問を頂いたことがあるのですが、このブログでの返信方法がよく分からず回答できておりませんでしたが、ブログに記事として書けばよいということに最近気付きましたので、頂いたコメントの回答は今後はブログになるべく掲載していきたいと思います。

何かあれば、遠慮なくご意見を頂ければと思います。

HOYAが手元資金の上限を引き下げ

6月21日の日本経済新聞で、HOYAが手元資金の保有上限を引き下げるとの記事がありました。

従来は、現金及び現金同等物の上限目途が3,000億円程度であったところ、今後は2,000億円程度と約1,000億円程度引き下げるということです。

HOYAの2018年3月期の連結キャッシュフロー計算書における現金及び現金同等物は2,458億円となっています。一方、連結売上高は、5,412億円です。キャッシュの余力を見る指標としては、手元流動性比率があります。

これはキャッシュ÷月商で算出され、月商の何倍程度のキャッシュがあるかを判断する指標です。HOYAの手元流動性比率は、2018年3月末時点では、次のとおりになります。

手元流動性比率 = 2,458億円÷(5,412億円÷12)= 約 5.4倍

つまり、月商の約5倍のキャッシュがあることになります。

これが多いか少ないかですが、企業の設備投資・M&A投資の計画状況や業種にもよりますが、一般的に考えると5倍は多いと思います。

なお、HOYAの有利子負債を考慮していないので、有利子負債を考慮したネットキャッシュベースではもう少し下がるのかも知れません。

ちなみに、JALは2018年3月期の決算説明会資料において、手元流動性比率として連結売上高の約2.6ヵ月とすると公表しております。

政策保有株式の縮減が今後求められる中、投資有価証券も現金と見なされる傾向にあります。とすると、バランスシート上の現金及び預金がそれほど多くなくとも、投資有価証券もキャッシュとしてカウントした場合、ネツトキャッシュベースでの手元流動性比率が高い企業は、キャッシュの使途について投資家に明確に説明する必要が出てくるかと思います。

M&Aのための投資資金である」ということであれば、どの分野のM&Aでどういう体制で、いつの時期を目安に行うものかといった説明を今後は投資家から求められるのかも知れません。

アルパインに対するオアシスマネジメントによる大幅増配の株主提案が否決

カーナビメーカーであるアルパインに香港の投資ファンドであるオアシスマネジメントが大幅な増配の株主提案をし、これに対して議決権行使助言会社であるISSが賛成推奨をしたことは前回書きましたが、6月21日にアルパインの定時株主総会が開催されました。

結果、株主総会においてオアシスの株主提案は全て否決され、会社提案が可決されたようです。

アルパインの2018年3月期の有価証券報告書も同日提出されており、同社の株主構成からこの結果について、少し触れてみたいと思います。

アルパイン有価証券報告書に記載の2018年3月末現在の株主構成は次のとおりです。

その他法人    41.79%
外国人法人    40.79%
金融機関     11.42%
個人その他     4.96%
金融商品取引業者  1.04%

ISSの議決権行使基準に賛成するのは外国人投資家が考えられますので、40.79%の多くは株主提案に賛成したのではないかと考えます(ちなみに新聞報道によればオアシスはアルパインの株式を9%程度保有するようですので、この40.79%にはオアシスの保有分も入るかと思います)。

もっとも、必ずしも全ての外国人投資家が賛成するわけではなく、アルパインが海外機関投資家に個別に面談をして、会社の方針を説明し、それに納得をしたような場合には、会社提案に賛同する外国人投資家もいるのかも知れません。

仮に40.79%が全てが賛成にまわるとすると、オアシスは残り約9%の賛成票を集めれば株主提案の賛成を得られたことになりますが、これに失敗したということになります。

1株当たり325円の配当は個人株主にとっては非常に嬉しい提案ですが、アルパインの個人株主4.95%には、アルパインの元役員などの会社関係者も入っているのではと思われ、とするとやはり残り9%の賛成票の獲得は、困難であったのでしょう。金融機関が11.42%とありますが、取引先銀行と国内機関投資家がどの程度の保有比率であるのか、これは開示されていませんが、興味のあるところです。

株主総会の決議結果については、数日後に臨時報告書が開示され、それに会社提案と株主提案の賛成率が開示されます。

それを見た上で、引き続き気付いた点があればコメントをしたいと思います。

役職定年を迎えた一般従業員は「野に出よ」

先日の日本経済新聞で「相談役・顧問は『野に出よ』」との記事がありました。

読者の関心を引く面白いタイトルであると関心しました。相談役・顧問制度自体は、弊害ではなく有用な場合もあるのですが、東芝のケースから弊害の制度という方向にどうも流れが向かっており、その中での記事になります。特に海外機関投資家からは相談役・顧問は理解しがたい制度のようです。

社外取締役の員数増加、役割強化の動きの中、企業が元取締役経験者を社内で抱え込むのではなく、社外に出て他社の社外取締役に就任することが日本経済のコーポレートガバナンス改革に有用との趣旨の新聞記事でした。

しかし、よく考えると、私は、相談役・顧問は「野に出よ」ではなく、役職定年を迎えた部長クラスの一般従業員が他社の社外取締役として「野に出る」ことが日本の市場活性化においては必要ではないかと思います。

ほとんどの企業では、部長含む一般社員には役職定年制度があり、取締役になれない圧倒的大多数の社員は、50代半ば又は後半で役職がなくなり、年収も新入社員と同じ程度まで下がるかと思います。

その後も嘱託・契約社員として勤務先と有期雇用契約を結び、65歳程度まで働くことにはなりますが、社内では組織上の指揮命令権はゼロになり、まわりからは扱いにくい平社員として見られ、当然仕事に対するインセンティブも相当に低下します。

で、あれば、例えば、仮に時価総額が5000億円規模の企業の元部長であれば、シニア社員として自社にとどまるのではなく、時価総額が10分の1程度の500億円規模の上場企業に社外取締役として就任することが本当は重要なのではないかと思います。

年代も50代後半であれば、体力・知力ともに十分あり、大企業の部長のポジションにあり、かつ専門性の高い業務における得意分野が2、3本あれば、中堅規模の上場企業において、社外取締役に就任するニーズは強いのではないでしょうか。

勿論、部長といっても、部下に業務を任せて管理するといった本当の部長ではなく、自ら手を動かし、専門性を持つ「作業担当部長」であることが必要ではあります。中堅規模クラスの上場企業には、こういう大企業の元部長クラスが社外取締役となることが実務上は一番望ましいように思えます。

とすれば、40代半ばの大手企業のサラリーマンの残りのサラリーマン人生の過ごし方ですが、自分が取締役候補ではないと自覚した時点で、担当部長を目指し、実務作業者としてその道に精通するという姿勢で残りの10年の自社でのサラリーマン生活を考えるのが大切になってくるかと思います。

なお、製品知識・広報知織とか、社内の従業員の名前などのその会社でしか通用しないことは他社では価値がなく、どの上場企業でも通用する汎用性のある業務、例えばスタッフ部門の業務で言えば、経理・財務であったり、コーポレートガバナンス投資ファンドなどのアクティビスト対応、人事労務対応など上場企業であればどこにいっても必ず必要になる業務のスキルなどが大事になります。

本日は、新聞のタイトルから横道にそれ雑談のような内容になりましたが、思うところを書いてみました。

経産省が上場企業に対して社外取締役の再任基準を明示する方向

6月17日(日)の日経新聞で、経産省が上場企業に対して社外取締役の再任基準を明示するよう求めるとの記事がありました。

今夏に定める予定のコーポレートガバナンスシステムガイドラインの改訂版(改訂CGSガイドライン)に規定するとのことです。改訂CGSガイドラインについては、先般、中間整理が出されており、以前にブログでも紹介しましたが、中間整理で社外取締役の再任基準は掲載されていましたので、このタイミングであらためて社外取締役の再任基準を記事にする背景は良く分からないところではあります。

取締役の選任については、招集通知に各取締役候補者の選定理由が記載されます。これは社内取締役、社外取締役のいずれを問いません。これが1つの選任理由になりますが、経産省は、これは選任理由であり、より明確な再任基準を策定せよということです。たしかに、選任理由は、多くの企業は一般的な内容しか書いておらず、どうして選定したのは極めて抽象的という場合が多いかとは思います。

社外取締役の解任基準を設ける背景としては、社外取締役が十分な機能を果たしていないという背景があります。企業によっては、社外取締役が十分な機能を果たしているというところも勿論あると思います。しかし、取締役会への出席率が低い、選任したものの、その方の能力が乏しいのか、会社に遠慮しているのかは知りませんが、社外取締役が積極的に提案や経営への関与が不十分なケースが多いというのが経産省の認識のようです。

社外取締役の再任から少し話は変わりますが、改訂コーポレートガバナンス・コードでは、経営陣幹部解任の要件も開示することとされております。

現時点では改訂コードを踏まえたCG報告書を提出している企業は少ないのですが、アサヒグループHDが次のような開示を行っています。

代表取締役などの業務執行取締役(CEO以下の経営陣)について、その業績につき毎年定期的に指名委員会にて審議し、取締役会にて定めた解任基準に該当するとの審議結果であった場合は、指名委員会における審議結果を取締役会にて検証の上、基準に該当する場合は、取締役候補者として指名せず、また、代表取締役・業務執行取締役(CEO以下の経営陣)としての役職を解任します。」

解任基準自体は開示していませんが、解任基準を取締役会で規定しているようです。

会社法上は、役員は正当な事由なく解任された場合には会社に損害賠償請求が出来るとされており、正当な事由には、法令定款違反行為が該当します。しかし、これのみが解任基準とするとわざわざ規定する必要はないということになります。

アサヒグループHDの開示する解任基準とは、「再任しない基準」を意味するのかは分かりません。いずれにせよ各社とも他社の開示例を見て、今後、詳細を検討することになると思います。

改訂コーポレートガバナンス・コードを反映したコーポレートガバナンス報告書の提出

6月株主総会シーズンが近づき、先日の日経新聞企業統治指針として改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)に関する記事が掲載されていました。

これまで改訂CGコードについては、何度か書いているので、改訂CGコードの詳細は今回は書きませんが、改訂CGコードへの対応は本年12月末までとされている中、6月1日以降改訂CGコードを踏まえたCG報告書を提出している会社も数社あるようですので、その簡単な紹介と今後企業が開示に当たって留意すべき事項について書きたいと思いま
す。

6月1日以降にCG報告書を提出している会社は、アサヒグループHD、セブン&アイカゴメ、Jフロントリテイリングなど1部上場企業では数社のようです。

政策保有株式については、カゴメが次のような内容を開示しています。

「当社は、直近事業年度末の状況に照らし、保有の意義が希薄と考えられる政策保有株式については、できる限り速やかに処分・縮減していく基本方針のもと、毎年、取締役会で個別の政策保有株式について、政策保有の意義、経済合理性等を検証し、保有継続の可否および保有株式数を見直します。なお、経済合理性の検証の際は、直近事業年度末における各政策保有株式の金額を基準として、これに対する、発行会社が同事業年度において当社利益に寄与した金額の割合を算出し、その割合が当社の単体5年平均ROAの概ね2倍を下回る場合には、売却検討対象とします。また、簿価から30%以上時価下落した銘柄及び、当社との年間取引高が1億円未満である銘柄についても、売却検討対象とします。その上で、得意先企業のうちこれらの基準のいずれかに抵触した銘柄については、毎年、取締役会で売却の是否に関する審議を行い、売却する銘柄を決定します。見直しの結果、2018年度に一部保有株式を売却いたしました。」

縮減を基本方針として、保有の合理性の検証方法まで具体的に記載しています。

政策保有株式については、大手企業では、これまでも保有検証を実施している企業も多いと思いますが、ここまで踏み込んだ開示はあまり見たことはありません。カゴメと同じレベルで他社も今後開示するか分かりません。

ただし、留意すべきは改訂CGコードを公表した際に東証パブコメに対する見解を公表しており、その中で、次のことが書かれています。

・「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった、一般的・抽象的
な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コードの趣旨を踏まえ、例えば、次
のような具体的開示が行われることが期待される
-  保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含め、どのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
-  設定した基準を踏まえ、どのような内容の議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
-  議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか

これを踏まえますと、カゴメの開示は決して詳細なものでもなく、東証の求める内容であるとも言えます。

とすると、次に企業が考えるべきことは、ここまで開示するとして、今、実施している保有の合理性の検証が果たして十分なものであるかの確認が必要になるような気がいたします。他社がどういう検証をしているのか詳細は分からないと思いますが、自社のこれまでの検証方法が、資本市場関係者に対して合理的な検証であると言えるのかの再確認が必要になるのではないでしょうか。

議決権行使助言会社ISSがオアシスのアルパインに対する大幅な増配要求に対して賛成を推奨

前回、議決権行使助言会社ISSについて書きましたが、先日の日本経済新聞でカーナビなどの自動車部品メーカーであるアルパインに対してアクティビストであるオアシスマネジメントが1株当たり325円の期末配当の株主提案をして(会社提案は1株当たり15円)、これに対してISSが賛成推奨したとの報道がありました。

アルパインには、親会社であるアルプス電気との経営統合を巡って、オアシスが色々と提案をしていることは新聞報道で周知の方も多いと思います。

今回の記事を見て、アルパインの2018年3月期の決算短信で財務状況を見てみました。大幅な増配を要求しているわけですから、アルパインのキャッシュがどの程度あるのかとの観点からの分析になります。以下は、2018年3月期のアルパイン決算短信の連結バランスシートから見た数値になります

現金及び預金 538億円
投資有価証券 285億円
有利子負債  0
利益剰余金  950億円
株主資本比率 65.8%

ネットキャッシュ(現金及び預金+投資有価証券-有利子負債)は823億円で、時価総額、総資産に占める比率は次のとおりとなります。なお、投資有価証券はコーポレートガバナンス・コードでは縮減が求められており、上場企業各社に対するアクティビストの株主提案でも投資有価証券は売却による現金化をすることを提案していることを考え現金及び預金と同じものとみなします。

ネットキャッシュ  / 時価総額 約 55%(ベース 時価総額1,500億円)
ネットキャッシュ  / 総資産  約 37%(ベース 総資産  2,190億円)
手元流動性比率       約 4ヶ月(ネットキャッシュ ÷ 月商)

これを見ると、キャッシュが潤沢であることはわかります。それだけ財務状況が良いという証であります。

オアシスは1株当たり325円の期末配当を要求しておりますが、これによると配当額は次のとおりとなります。

期末配当金額=325円 × 発行済株式数 68,952,260(自己株式除く)=約224億円

2918年3月期の純利益が93億円ですので、配当性向は約240%となります。会社提案は期末配当が1株当たり15円で、これに発行済株式数を乗じると総額約10億円ですので、約214億円増となります。

前述のとおり、ネットキャッシュも潤沢であることから、224億円の配当をしても十分なキャッシュがありアルパインの財務に与える影響は低いように思えます。1株当たり325円の増配にISSが同意したという記事だけを読むと少々驚きますが、あらためて財務諸表を読むと、財務に大きな影響はなくISSは論理的に当然の判断をしたと見ることもできるのではないでしょうか。

次にこれに賛同する株主の可能性ですが、アルパインの2018年3月末の株主構成は公表されていませんので、2017年3月期の有価証券報告書を見ると、次のとおりです。

その他法人41.85%、外国人株主 37.99%、金融機関13.43%、個人その他 5.76%

その他法人は親会社であるアルプス電気かと思います。

ISSが賛成を推奨するということは、多くの海外機関投資家ISSの推奨を参考にするので、外国人株主の多くは株主提案に賛同する可能性が高いです。総会の決議を通すための過半数の賛同を得るには、個人株主や国内機関投家の賛同がどこまで得られるかがポイントかと思います。

ところで、このISSの賛成推奨に対して、6月8日にアルパインが反論を東証に開示しています。

要約しますと、事業運営はグローバル展開であり、実際の現預金管理は多数拠点で複雑に管理されていること、投資有価証券は中長期的に円滑な取引関係を維持するために必要な戦略投資であり、これらのアルパイン固有の資金需要がISSの判断には考慮されておらず、追加配当を行った場合には事業運営に著しい制約を与えるという反論になります。

しかし、個人的な印象としては、表現が抽象的かつ定性的な域を出ず、反論としては非常に弱い印象を受けます。アルパインのバランスシートを見れば、財務・会計に相当疎い人でない限り、キャッシュリッチであることが容易に分かります。とすると、株主還元をせずにキャッシュを保有する理由の正当性を投資家に説明するわけですから、設備投資やM&Aなどの成長投資にいくら使うとかの具体的な数値をあげないと、説得性の乏しい反論であるような印象を持ちました。

経済合理性のある株主提案は益々増えております。本件がどのように進んでいくか、今後、少し関心をもって見ていきたいと思います。

ISSの議決権賛否推奨レポートに対する企業側の反論

議決権行使助言会社である米国ISSの議決権行使の賛否推奨レポートに対して、ツガミ(東証1部)とインフォコム東証JQS)が反論を公表しました。
ISS議決権行使助言会社の大手で、上場企業の株主総会議案に対して賛否を推奨する会社です。

ツガミ、インフォコムともに自社の株主総会社外取締役候補者に独立性がないとISSが判断していることに対して、東証の独立役員の基準は充たしており、ISSのいう独立性がないという判断は正しくないとして反論しています。

ISSの独立性の判断基準は東証より厳しいのは周知の事実ですが、そのような中、あえて反論を掲載する意義ですが、反論をすることで自社の会社提案議案に対する機関投資家の反対率が下がる可能性が高いということにあります。

ISSの反対推奨に対する反論の論拠としては、ISSの事実認定に誤りがあること、ISSの判断基準に合理性がないことが考えられます。後者は、合理性の判断は主観が入るので何が正しいかの判断は難しいところあるのですが、前者の事実誤認であれば、正しいか誤りかは明確になるのでISSの判断は覆るはずと考えられますが、実際には、ISSが企業の反論を受けて判断を覆したケースはないようです。

しかし、企業としては、適切な反論をしておけば、機関投資家はその反論を踏まえて判断をしますので、企業の反論に理由があると考えれば、会社提案に賛成する、つまり反対率が低下するということになるかと思います。

ISS株主総会シーズンに膨大な数の企業の総会議案を招集通知を見て判断するのですから、機械的に判断することが多く、細かいところまで目が行き届かないところも当然あるかと思います。

このため企業としては、反論するという事後的対応するよりも、まずはISSにしっかりと認識して頂きたい事項は、招集通知の各議案にハイライトするなど明確に記載をすることが肝要かと思います。

東証が改訂コーポレートガバナンス・コードを公表

6月1日に東証が改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)を正式に制定・公表しました。

本年6月1日からの適用で、上場企業各社は、準備出来次第速やかに対応し、遅くとも本年12月末まで対応することとされています。3月30日に金融庁が公表した案とほぼ同内容となっています。

また、パブコメに関する東証の考えも併せて公表されておりますが、改訂CGコードや投資家と企業の対話ガイドラインの解釈について東証の考えが示されている箇所もあり、参考になる東証の主な考えについて、以下紹介します。

<資本コスト> 

・把握する資本コストに加えて、資本コスト算出の背景にある考え方などについても、投資家と上場会社との間で建設的な対話が行われることを期待

<政策保有株式>

・個別の政策保有株式について、取締役会において保有の適否を検証するに際して、執行側において一定程度の準備作業を行うことも想定されるが、そうした場合であっても、実質的に取締役会自らが個別の銘柄について検証を行うことが必要

・必ずしも個別の銘柄ごとに保有の適否を含む検証結果を開示することを求めるものではないが、「検証の結果、全ての銘柄の保有が適当と認められた」といった一般的な開示ではなく、取締役会における検証に際し、コードの趣旨を踏まえた、次のような具体的開示が行われることを期待
① 保有の適否を検証する上で、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかを含めどのような点に着眼し、どのような基準を設定したか
② 設定した基準を踏まえ、どのような議論を経て個別銘柄の保有の適否を検証したか
③ 議論の結果、保有の適否について、どのような結論が得られたか

・ 政策保有株式の縮減に関する方針・考え方については、政策保有に関する投資家と上場会社との対話をより建設的・実効的なものとするため、自社の個別事情に応じ、例えば 保有コストなどを踏まえ、どのような場合に政策保有を行うか、 検証結果を踏まえ、保有基準に該当しないものにどのように対応するか等を示すこと

以上になりますが、これらは一例であり、他にもパブコメに対する東証の考えが示されていますが、今後の実務指針になる記述もいくつかあります。

政策保有株式以外にも、指名委員会等設置会社でない監査役設置会社では、社外取締役を主要な構成員とする任意での指名・報酬委員会の設置が求められています。今回の改訂CGコードへの対応は、コーポレートガバナンスにこれまで割ける人的リソースの小さい企業には、負担は重くなると思います。

ただし、金融庁東証も何度も繰り返し言っていますが、CGコードは必ずしも全ての事項についてコンプライが求められるものではなく、エクスプレインすることでもよいとされています。

エクスプレインというのは、コンプライ(=遵守)が出来ない場合には、自社の実態や考えを踏まえ、遵守できない理由を説明することです。

例えば、取締役会の構成で、改訂CGコードでは、ジェンダーや国際性が求められることになりますが、女性の取締役を入れる必要がない、また、ビジネスが国内が主なので国際性は不要という場合には、不要である旨のエクスプレインをすれば良いのです。
イギリスでは、CGコードについて、エクスプレインしている企業も多くあると聞いていますが、日本企業は真面目なので、コンプライすることが多いですが、この点は、企業は何ら躊躇することなく、コンプライできない事項は、エクスプレインをすればよいと思います。

一方、エクスプレインの理由が難しい箇所もあると思います。

CEOの解任手続きなどはその1つと思います。改訂CGコードでは、業績等を鑑みたCEOの解任手続きの設定が求められていますが、オーナー企業などはコンプライは難しいのではないでしょうか。

オーナー企業では、子息や親戚が後継者になるのはあたり前ですが、業績評価等を踏まえた解任基準を設けることについては「何これ?」といった感覚と思います。後継者計画の策定も同じと思います。
しかし、オーナー企業だからオーナーの子息が当然に社長になるというのは、資本市場から見た場合には説明はつかないと思います。

オーナー企業であっても上場している以上は「公器」であるという認識をあらためて持ち、機関投資家が納得する対応をする必要があります。機関投資家は、CEOがオーナーの子息であろうが、サラリーマン上がりあろうが、企業価値を高めるCEOに関心があるのです。オーナー経営者は、きちんとした後継者計画を策定し、自分の子息がその計画の基準を充足する資質を持てるよう育成することが必要になってきます。

12月末まで上場企業は対応でバタバタすることになるかと思います。

そもそも、前にもブログで書きましたが、市場での資金調達の必要性がない上場企業は、上場の本来の意義がないので、改訂CGコードなどの面倒なことで手を煩わせることになるのであれば、これを契機におもいきって上場を廃止するということも真剣に考えてよいのかもしれません。廃止することによって、資本市場関係者の対応などを気にすることなく自由に経営できる上、経理の決算担当部門やIR部門など収益を生まない部門の人員を大幅にリストラすることで利益アップも期待できます。

日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査結果

先日の日本経済新聞に掲載されていましたが、日本企業の海外M&Aに関する意識・実態調査結果についてデロイトトーマツが公表しました。

「日本企業の海外M&Aは上達しているのか?」というタイトルで、日本企業の海外M&Aに関する意識に関する実態調査です。13ページほどのレポートになりますが、海外M&Aの成功率は約37%程度とのことです。

このレポートの中で、以前に経済産業省が公表した「海外M&Aを経営に活用する9つの行動」の紹介があり、ディール(デューデリジェンス~クロージング)の前後を含めた、M&Aによる成長サイクル全体を通して経営トップが特に意識すべき視点が記載されており、「9つの行動」があげられています。

1. 「目指すべき姿」と実現ストーリーの明確化
2. 「成長戦略・ストーリー」の共有・浸透
3. 入念な準備に「時間をかける」
4. 買収ありきでない成長のための判断軸
5. 統合に向け買収成立から直ちに行動に着手
6. 買収先の「見える化」の徹底(「任せて任さず」)
7. 自社の強み・哲学を伝える努力
8. 海外M&Aによる自己変革とグローバル経営力強化
9. 過去の経験の蓄積により「海外M&A巧者」へ

いずれも内容自体は当たり前のものかと思います。当たり前のことですが、実施するにはなかなか難しいことと思います。要は買収した企業の一番の資産は人ですが、海外という日本と異なる文化・価値観を持つ人を、それも買収されたということで買収者である日本企業に少なからず敵対心を有する人をマネージするのは難しいことと思います。日本電産の永守会長が、以前にPMIには海外では地域にもよるが数年かかるといっていました。

日本企業による海外M&Aの成功件数が少ないとは従前より言われていることですが、成功率が37%ということは、「失敗した」との明確な回答はしたくないというインセンティブを持つ上での企業各社の回答ですから、成功例は本当は30%を下回ると推定されます。

経産省がCGS研究会(第2期)の中間整理について公表

5月18日に経済産業省が、CGS研究会(第2期)の中間整理について公表しました。

経産省は、昨年3月、コーポレートガバナンスの取組みの深化を促す観点から、企業において検討することが有益と考えられる事項を盛り込んだ「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)を策定しました。その後、CGSガイドラインのフォローアップとして、CGS研究会(第2期)を立ち上げ、コーポレートガバナンス改革の現状評価と実効性向上に向けた課題について検討を行ってきましたが、今回、中間整理を公表しています。

本年の夏頃を目途にCGSガイドラインの改定版を公表するということですが、改訂の方向性を示す中間整理の大きな内容は、次のとおりです。

1 社外取締役の活用
- 社外取締役としての役割を果たす上での最低限のアベイラビリティーやコミットメントが求められること、社外取締役を総体して捉えて、取締役会全体として必要な資質・能力を備えることの整理
- 社外取締役による監督の実効性確保の観点から、指名委員会において社外取締役の「選任・再任」の基準の設定が望ましい

2 指名委員会・報酬委員会の活用
- 委員会の構成や運営方法などについて、議論の対象や企業の置かれた状況による差異に応じ、場合に分けてベストプラクティスを整理すること

3 後継者計画のあり方
-「指名・再任プロセス」の客観性・透明性の確保や後継者計画の実効性確保において企業が参照できるベストプラクティスを示す

4 経営陣幹部の報酬・業績評価等
- 役員報酬の方針やベストプラクティスについて整理。報酬方針・設計の在り方のベストプラクティス(例:グローバル事業の展開企業におけるグローバル経営人材確保をする場合の役員報酬設計を行う際の留意点)の整理

5 取締役会の議長
- どのような企業が社外取締役が議長を務めるのが望ましいかを整理

大きくポイントと思われる事項は、上記のとおりかと思います。

上記5などは、現在は上場企業の約80%超は取締役会議長=CEOとなっていますが、指名委員会等設置会社など取締役会を戦略的議論の場とする企業は、社外取締役を議長にするというのが今後の流れになるような様相です。

もうすぐ確定する改訂コーポレートガバナンス・コードは金融庁の管轄で、こちらの改訂CGSガイドライン経産省の管轄ですが、経産省の担当者もフォローアップ会議にオブザーバーとして参加しており、コーポレートガバナンス・コードと同じ方向での改訂となります。

本夏に改訂CGSガイドラインが公表されましたら、またブログでポイントを整理したいと思います。

アクティビスト(物言う株主)の行動によって一般株主が潤う

5月21日にアクティビスト(物言う株主)であるストラテジックキャピタルが、新日本空調株式会社(証券コード1952)に対する本年4月24日付けの株主提案を取り下げる旨の公表がありました。

新日本空調が5月14日に公表した剰余金の増配決定の公表を受けての取り下げとのことです。本件を少し整理してみたいと思います。

<4月24日付の株主提案のサマリー>
・ 改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえて新日本空調の定款に、今後3年以内に政策保有株式を売却することを規定することを求める。そして、政策保有株式の売却資金は、株主価値向上に使うこと
・ 2017年12月31日現在における新日本空調の現預金は約73億円、投資有価証券は約211億円あり、一方、有利子負債は約98億円。3年後は上記1の投資有価証券を売却して現金に換えた場合、税引後で約188億円の手取金となる
・ 新日本空調は2018年3月期の1株当たり年間配当は40円を公表しており、2018年2月には1年間で取得総額10億円となる自己株式取得を公表。年間配当金の支払額と自己
株式取得総額の合計は20億円となり、2018年3月期の予想当期純利益の約66%に相当
・ 3年後には政策保有株式の売却に伴う手取金が約188億円になるので、現預金は
非常に潤沢になる
・ そこで、2019年3月期からの今後の3期については、総還元性向を100%以上になるようにして欲しい

 これを受けて、新日本空調は、5月14日に増配の決定・公表をしております。

5月9日公表の2018年3月期の期末配当予想は30円としておりましたが、14日公表では、5円増配し、1株当たり35円になっています。2018年3月期の年間配当は、45円(第2四半期10円、期末35円(普通配当30円、特別配当5円))となり、これを受けて、ストラテジックは株主提案を取り下げたことになります。

アクティビスト投資ファンドが増配を要求したことを受けて、会社が一定の増配を行うということは良くあることです。

ストラテジックは、株主提案が株主総会で通ることは当初から考えていないと想定します。本当の狙いは、株主提案をして、会社側に増配という一定の譲歩をさせることにより一定程度の利益を得るのが狙いです。

2017年10月23日にストラテジックが公表した大量保有報告書によれば、新日本空調の発行済株式数は、25,282,225株でストラテジックの保有比率は4.82%となっています。この保有割合から保有株数を算出すると保有株数は12,186,032株となります。今回の株主提案で5円増配を勝ち取ったわけですから、ストラテジックは、約6,000万円の配当アップを獲得したということになります。

本件で重要なのは、ストラテジックが株主提案を行ったことにより、個人株主など他の株主も増配の利益を享受できたという点です。例えば、5,000株を持つ個人株主がいるとすると、会社の当初予定である1株当たり40円ですと20万円の配当となるところ、ストラテジックのお陰で5円増配により25,000円増えることになるのです。

つまり、一般株主、特に個人株主にとっては、ストラテジックは自分たちを潤してくれる非常に頼もしい味方ということになります。

株主資本配当率(DOE)の開示

先日の日本経済新聞の記事に株主資本配当率(DOE)の記事が出ていました。DOEとは、Dividend on equityの略で、次のとおり算出されます。

DOE=配当金額 ÷ 当期末の株主資本

配当に関する指標には、配当性向があります。良く耳にする言葉かと思います。

配当性向は、配当金額 ÷ 当期純利益(%)です。つまり、会社が1年間で儲けたお金(当期純利益)からどれだけ配当金として株主に還元されるかを示す指標です。配当方針として、「配当性向20%以上」「配当性向30%以上」といったことを公表する企業も多いと思います。

新聞報道によれば、配当性向を目安にする企業は、純利益が減ると連動して減配となる可能性があると書いてあります。

これはどういうことかといいますと、仮にある企業が配当性向30%を公表しています。この企業の今期の純利益が100とした場合、配当金額は30(=100×30%)となります。しかし、来期は、当期純利益が50と減益になった場合、配当金額は15(=50×30%)となり減ることになります。配当金額を発行済株式数で割ることで1株当たり配当金額となりますが、配当総額が減ることで減配となります。

一方、DOEは、利益を積み上げた株主資本に対してどの程度を配当に回すかを示す指標で、株主資本は変動は少ないため、より安定的に株主に還元する姿勢を市場に示すことができるとされています。

新聞報道では、資生堂ファンケル、JAJがDOEを基準にしているとのことでしたので、インターネットで「資生堂 DOE」といったキーワード検索をしたところ、次のような内容が開示されていました。

資生堂:DOE 2.5%以上を目安とした長期安定・継続増配

ファンケル:連結配当性向40%程度及びDOE5%程度を目途に配当金額を決定

JAL:配当性向 親会社株主に帰属する当期純利益から法人税等調整額の影響を除いた額の30%程度を目安とし、DOEは 維持すべき株主資本利益率ROE)の水準10%と上述の配当性向を勘案し、3%以上となるように努める

こういった開示を市場は評価し、資生堂ファンケルともに株価が上がったとのことのようです。

ところで、話は変わりますが、配当性向を20%又は30%といった数値基準を掲げる企業もありますが、それで本当に十分なのでしょうか。

配当の原資は、基本的にバランスシートの株主資本の部にある繰越利益剰余金になります。正確には、繰越利益剰余金が100あっても現金が50しかないと現実には50しか配当出来ませんので(借入をして配当原資を増やすということも一応ありますが)、繰越利益剰余金の金額を上限として、その上で更にバランスシート上の現預金を上限とする範囲で配当が出来るということかと思います。

個人株主は、素人ですから、自分の投資先企業が配当性向30%で安定配当をしているということで満足している方も多いと思いますが、バランスシートを見て、配当の余力はもっとあるのではないかと疑って見る必要があります。

企業が使わないキャッシュを溜め込んでいるのであれば、つまりM&Aや設備投資でキャッシュを使う具体的な予定がないのであれば、株主はそれは還元せよといえる権利があります。

最近、2018年3月期決算企業の決算の発表が続き、個人的な株式投資の目的で、週末に自宅で四季報オンラインで、低PBR、ネットキャッシュ大、外国人株主比率が10%超などの一定の基準で中小型銘柄のスクリーニングをしているのですが、明確な配当方針やキャッシュの使途の公表もないままキャッシュをかなり溜め込んでいる企業がこの規模の企業では散見されます。要するに、上場していながらも、コーポレートガバナンスの意識が低い企業ということです。

こういった中小型銘柄の企業は、個人株主もしっかりと理論武装をすれば、株主としての権利を行使できるネタが沢山あると最近つくづく感じています。

サム・オブ・ザパーツ(Sum of the parts)による理論株価のバリュエーション

本日は、企業の理論株価分析として、サム・オブ・ザ・パーツについて説明します。

複数の事業セグメントを持つ企業の理論株価を分析するバリューエーション方法になります。具体例をあげて説明します。

甲会社という上場企業があり(株価800円、発行済株式数 7,000万株)、甲会社は電子部品事業と診断薬事業の2つの事業セグメントがあり、各事業のEBITDAは次のとおりとします。

電子部品事業 EBITDA 100億円(=営業利益60億円+減価償却費40億円)
診断薬事業  EBITDA 40 億円 (=営業利益30億円 +減価償却費10億円)

複数の事業セグメントを持つ企業は、有価証券報告書において、事業別の売上高、営業利益、減価償却費が開示されていることが多いと思います。

ここで、電子部品事業と診断薬事業のそれぞれのくくりでマルチプル法でそれぞれの事業価値を算出します。電子部品事業の業界には、競合他社が5社存在、一方、診断薬事業には、競合他社が7社存在するとします。

EV / EBITDA倍率が、電子部品事業の5社平均では7倍、診断薬事業は10倍とします。EV=株式時価総額+ネットデットで、EV / EBITDA倍率 = EV ÷ EBITDAの算式より算出します。次のとおりになります。
電子部品事業  EV= 100億円 ×   7倍=700億円
診断薬事業   EV=   40億円 × 10倍=400億円

よって、甲会社のEVは合計して1,100億円となります。

そして、ここから理論株式価値を算出します。EV=株式時価総額(株式価値)+ネットデットより、株式価値=EV-ネットデットになります。

ここで、甲会社のネットデット(=有利子負債-現預金)が仮に400億円とすると、株式価値=1,100億円-400億円=700億円になります。

そして、発行済株式数7,000万株であるため、1株当たりの株式価値=1,000円(700億円÷7,000万株)となります。とすると、甲会社の市場株価は、現在800円で、理論株価より200円低いことになります。これがサム・オブ・ザ・パーツによる理論株価算出の考え方になります。

この方法によると、複数の事業セグメントを持つ企業の理論株価が比較的簡単に算出できることになります。ただし、よく言われることですが、次のような課題(欠点)もあると思います。

1.競合会社の株価が全体的に低くても、将来業績への市場の期待から株価が非常に高い企業が1社含まれるような場合、倍率(マルチプル)が異常値になる
2.同じ業界の上場企業が少ないと評価が難しい

上記のような欠点があると甲会社の理論株価の説得度が低くなりますので、サム・オブ
・ザ・パーツによって理論株価を算出するには、異常値の競合他社の数値は除くなどの作業が必要になります。

そうしないと、理論株価と市場株価の乖離を投資先企業に指摘しても、反論を受けることになります。