中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

東芝買収の動きを分かりやすく解説します(第3回)ー サム・オブ・ザ・パーツによる株式価値の算出

本日は保有銘柄2社の決算発表がありました。1つは東京個別指導学院です。決算が好調だったこともあり、終値は前日比+24円でした。ただ、東京個別指導の四半期決算が好調であることはQ1からの決算関連資料を丹念に分析していれば予測できることで、それなのに好決算発表で株価が上がるということは、分析をしないで株式を売買している人がいかに多いかの証左であり、四半期ベースで銘柄の決算を丹念に分析すれば株式投資、特に機関投資家のあまり注目しない中小型株投資は確実に儲かるということだと思います。

さて、本題ですが、CVCキャピタルとアクティビストの考える東芝の株式価値に温度差がある模様ですが、本日は株式価値算定の手法であるサム・オブ・ザ・パーツ(SOTPといいます)について説明したいと思います。

4月9日の日経新聞で、キオクシア株の価値を加えた東芝の理論株式価値は2兆8,000億円程度である一方、4月6日時点の東芝の株式時価総額は1兆円7,400億円で大きく数値に開きがあるという報道がありましたが、この東芝の理論株式価値算定に当たってはサム・オブ・ザ・パーツを使用したということです。サム・オブ・ザ・パーツについては2年ほど前にブログでも紹介したことがありますが、事例をシンプルにしてあらためて説明します。

複数の事業セグメントを持つ企業の理論株価のバリューエーション手法になります。具体例をあげて説明します。甲会社という上場企業があり甲会社はA事業とB事業の2つの事業セグメントがあり、各事業のEBITDAは次のとおりとします。

A事業 EBITDA 100億円(=営業利益60億円+減価償却費40億円)

B事業 EBITDA  40億円(=営業利益30億円 減価償却費10億円)

これを前提として、算出を進めます。

まず最初に各事業の同業他社のEV/EBITDA倍率の平均値を算出します。

EV(事業価値)=株式時価総額+ネットデットです。A事業には同業他社が5社、B事業には同業他社が7社存在するとします。そして、EV / EBITDA倍率( EV ÷ EBITDA)のA事業の同業5社平均が7倍、B事業の同業7社平均が10倍であったと仮定します。ちなみに、7倍というのは、その企業をまるごと買収した際にかかった費用が7年分のEBITDAで回収できるということです。

次にこのEV / EBITDA倍率をベースにA事業とB事業の理論上のEV(事業価値)を算出します。

事業は700億円(=EBITDA 100億円 ×倍)でB事業は400億円(=EBITDA 40億円 × 10倍)となり、同業他社の平均倍率数値をベースに算出した甲会社のあるべきEVは合計して1,100億円(A事業+B事業)となります。

最後にここから理論株式価値を算出します。

EV=株式時価総額(株式価値)+ネットデットの公式から、株式価値=EV-ネットデット(純有利子負債)になります。甲会社のネットデット(=有利子負債-現預金)を仮に400億円とすると、株式価値は700億円(=1,100億円-400億円)となります。この700億円が甲会社の理論上の株式価値ということになります。

一方、甲社の株式時価総額が500億円となると、700億円あるべき株式価値が市場では200億円も低く評価されており、この原因はコングロマリット・ディスカウントであるということになります。これがサム・オブ・ザ・パーツによる理論株価算出の考え方になります。

こんな単純な方法でよいのかと言われると私はコーポレートファイナンスの学者でもないので良く分かりませんし、自分でもこれでよいのかという思いはあります。しかし、複数事業を持つ企業の理論株価を算出するに当たって良く使用される手法であり、そういうものとして理解するしかないと思います。

本日のヤフーニュースによりますと、香港の投資ファンドのオアシス・マネジメント東芝TOB価格5,000円は安く、6,200円が相当として早速噛みついてきたようですね。東芝の一般株主にとっては、TOB価格が6,200円とするととても美味しい話ですね。保有株数によっては、がっつりと金を儲けるチャンス到来ということかと思います。私は東芝株を保有していませんが、数千株程度購入しておけばよかったと今更ながら後悔していますが、後で後悔するのが株ですから仕方ありません。