中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

物言う株主(アクティビスト)の視点からのコーポレートガバナンス・コードの読み方(第8回)ー MBO(マネジメント・バイアウト)

旬刊商事法務の第2299号にニッセイアセットマネジメントの井口氏の執筆した「来年の株主総会機関投資家の賛同を得るために」の記事がありますが、これは興味深かったです。機関投資家の議決権行使基準の考えを知りたい方は一読をおすすめします。週末に余裕があれば、これに関連してブログでも触れてみたいと思います。

前回の第7回に続いて、本日はコーポレートガバナンス・コードの第1章「株主の権利・平等の確保」の中にあるMBOについて、物言う株主から企業に主張する場合のポイントのお話をします。コーポレートガバナンス・コードの原則1-6に次の規定があります。

【原則1−6.株主の利益を害する可能性のある資本政策】支配権の変動や大規模な希釈化をもたらす資本政策(増資、MBO等を含む)については、既存株主を不当に害することのないよう、取締役会・監査役は、株主に対する受託者責任を全うする観点から、その必要性・合理性をしっかりと検討 し、適正な手続を確保するとともに、株主に十分な説明を行うべきである。

MOBでは最近、物言う株主が色々と主張をして不成立に終わる場合も増えていると思います。MBOについては、経済産業省が次のとおり2019年6月28日に「公正なM&Aの在り方に関する指針」を公表しています。

https://www.meti.go.jp/press/2019/06/20190628004/20190628004_01.pdf

これを拠り所にして、MOBでの価格の妥当性を攻撃して、即ち「MBOでの株式価値が低すぎる」と主張して、MOBの価格見直し(アップ)を狙ったり、場合によってはMBO自体が不成立に終わるケースも増えています。上記の原則でいうと「必要性・合理性が検討されておらず、適正な手続が確保されていない」ということになります。

前にもブログで記載したことがありますが、MBOをしたい経営陣はなるべく低い株式価値を算定したいが、一方、対象会社の経営陣としては自社の株主に対してなるべく高い価格で株式価値を算定して売却する義務があるということで、相反する立場にあるという点が一番の大きな課題です。

企業がMBOを選択する際に物言う株主として主張できるポイントは、大きく2つあるかなと思います。1つは、対象企業の株価が低いことを理由に「プレミアムをもっと高くせよ」という主張です。

市場株価が低い場合、つまりPBRが1倍以下の場合やPERが低い場合、株価にプレマムを付けたところでベースとなる株価が低迷しているので、「価格が低すぎるではないか」と主張することです。「株価が割安なのは経営陣のせいであり、市場退出の際にプレミアムをこれだけ乗せましたと胸を張るのは笑止千万」という主張です。

2つ目は、株価価値の算定方法が適切ではないという主張です。

株式価値の算定の1つにDCF法があります。このDCF法というのは、実は結構適当な手法なのです。3年から5年間の事業計画の最終年度の損益数値をどうするかで算定額が大きく変動します。けど、3年~5年後の損益の数値などそもそも予想することがナンセンスであって、会社が先行きの見通しが暗いと考えてDCF法で算定すると株式価値は低くなるのです。

この場合、同業他社のバリュエーションが対象企業よりも高い場合に物言う株主は狙い目です。つまり、DCF法で算定して株式価値が低い結果であっても、同業他社の指標をベースに算定するマルチプル法(EV/EBITDA倍率、PER倍率)で算定すると高くなるとすると、「マルチプルで株式価値を算定すれば高くなるではないか。株式価値の算定は会社の都合の良い算定方法でやっているのでは?」と主張できます。この点は前にブログで記事を書いていますので、最後に再掲します。

纏めると、要するに株価の低迷している企業がMBOをしようとする場合には、物言う株主には色々とチャンスがあるということです。株主としては、保有銘柄と同業他社についてEV/EBITDA倍率、PER倍率は調べておくことが大切かと思います。