中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

健康経営銘柄をご存知でしょうか

本日は「健康経営銘柄」について書いてみたいと思います。

健康経営銘柄とは、2014年度から経済産業省が「国民の健康寿命の延伸」を目的に東証と共同して行っている取組みの1つで、戦略的に健康経営に取り組んでいる企業を「健康経営銘柄」として選定・公表しています。

公表により健康経営に対する上場企業の取組みが株式市場で評価されるという狙いです。まだまだ一般的な知名度は低いのかも知れません。

経済産業省のHPに次のような記述があります。

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<以下、経済産業省のHPより記述抜粋>

経済産業省は、東京証券取引所と共同で、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業を、原則1業種1社「健康経営銘柄」として選定しています。本取組では、東京証券取引所に上場している企業の中から「健康経営」に優れた企業を選定し、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって、魅力ある企業として紹介することを通じ、健康経営に取り組む企業が社会的に評価され、より「健康経営」の取組が促進されることを目指しています。なお、この取組は、「未来投資戦略2017」に基づく施策の一つとして実施するものです。
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2018年健康経営銘柄には26社が選定され、経済産業省のHPで社名が公表されています。各業種1社で、味の素、花王TOTO東京海上コニカミノルタJFE丸井グループ塩野義製薬などが選定されています。ESGに力を入れている企業が多いような印象を持ちました。

健康経営銘柄に選定されるメリットとしては、健康経営に力を入れている企業と見られ、採用活動やその企業の製品・サービスの購入にプラス影響があると言われています。ミレニアル世代が関心の高いエシカル消費にも繋がるものと思います。

本年8月下旬に健康経営銘柄2019の選定に関する調査票が経済産業省のHPで公表される予定ですので、健康経営ひいてはESGに力を入れている企業は、本銘柄選定に積極的に取組むことと思います。

 

カジノ関連銘柄の情報収集開始しました

この夏季休暇中に今後の株式投資にあたり、色々と新聞情報や雑誌情報を眺めていますが、今後の株式投資のテーマとしてカジノ関連について、情報収集・整理をはじめましたので、基本的なことについて今回は書いてみたいと思います。

カジノ関連は、2016年12月15日に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「IR推進法」)が成立しました。その後、2018年7月20日に特定複合観光施設区域整備法(いわゆる「IR整備法」)が成立しました。

本日の日本経済新聞の社会面にもギャンブル依存症という見出しでカジノに関する記事がありましたが、カジノ関連での現状のポイントは、次のとおりです。

1 開業場所は3箇所を整備。自治体が誘致を申請し、国が選定

2 日本人の入場は週3回までとし、月10回までとする

3 入場料は6000円で、マイナンバーカードで本人確認

4 カジノの収益の30%を国が徴収し、自治体と折半

その他の報道によれば、東京、大阪、長崎などが候補地として名乗りをあげていますが、上の4の点で採算が取れないのではとの声も出ているようです。

とりあえず、現時点では、私はこの程度の情報しかまだ把握していませんが、カジノ関連銘柄は、色々あります。

不動産関連、建設関連、アミューズメント関連、パチンコ関連、警備関連等です。インターネットで「カジノ関連銘柄」で検索すると色々な企業が出てきます。

カジノとセットで、犯罪増加の可能性、ギャンブル依存症が必ずありますので、外国人の増加ともあいまって警備関係銘柄、ギャンブル防止関連の銘柄も今後注目をされるかと思います。また、開業地が決定されれば、その地域の観光や小売などの地域に特化した企業の株価も大きく注目されるかと思います。

IR整備法が制定されてから、2019年夏頃を目途に基本方針を策定・公表されるようですが、その内容が具体的されることで、カジノ関連銘柄が更に大きく動きそうな予感がします。

バリュー投資では、株価が安値の段階で仕込むことが重要ですので、今後は投資テーマとして、カジノ関連を追いかけて、カジノ関連情報が公表された時点で関連銘柄を速やかに買えるように、予めカジノ関連銘柄を精査しておくのが個人投資家には良いかも知れません。

色々と割安株を探す中で、やはり化学、半導体、IT、電機等は自分には良く分からないところがあります。投資の基本的姿勢は、自分自身が投資先企業の業界や業界の今後、ビジネスモデルについて理解できることが重要かと思います。その観点からは、私のような文系人間には、カジノというのは、比較的理解しやすいようにも感じています。

7月20日に成立したIR整備法をネットで検索したところ罰則まで含めて251条まである比較的ボリュームのある法令ですが、一度全文を読んでおきたい思います。

カジノ関連は今後ブログに掲載して行きたいと思います。

GPIFがESG投資の年間収益率を公表

今週は1週間夏季休暇のためブログの更新が遅れておりましたが、8月14日の日本経済新聞に、ESG投資に関する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のESG活動報告が公表され、2017年度の年間収益率は13~15%台で、ベンチマークとするTOPIXを下回ったとの記事がありました。GPIFは、今回はじめてESGに関する取組みを「ESG活動報告」として発表しました。

記事によりますと、GPIFが採用する3指数のうち、最も収益率が低かったのは、リーダーズ指数で13.74%で、収益率が高かったのは、女性活躍指数で15.29%との
ことです。

女性活用比率の高い企業は業績も好調であるという意見も一部ありますが(実のところは、女性登用と業績に因果関係はなく、業績が良くキャッシュに余裕のある大手企業が、女性活用を世間にアピールするためCSR部門、コンプライアンス部門などのビジネスの本流から離れた部署に女性幹部を登用して数を増やしているというのが現実かも知れませんが)、それを裏づける結果ともいえそうです。しかし、それでも、TOPIXの15.87%を下回っているということに変わりありませんが。

ESG投資の効果は、短期での収益率で見るのではなく、長期での視点で見る必要があります。つまり、GPIFのように国民の年金を長期で運用するところでは、投資先企業の短期的な業績ではなく、何十年先を見る必要があり、そのためには、企業のESGの要素が重要ということがESG投資の根底にあります。企業の10年後の業績などは、企業の現経営者ですら分からないのであって、であれば、業績以外のESG要素を見ていこうという極めて単純な発想とも言えます。

従って、今回の記事にあるように、TOPIXの収益率を下回るということは特に大きな問題ではありません。ただし、長期の投資といっても、やはり短期でも収益率が低いよりは、高い方がよいのが運用委託者の本音かと思います。

運用機関に長期での運用を委託するといっても、毎年の運用実績が低いとさすがに運用先を見直すというのこともあるかと思います。その観点からは、現在、GPIFは運用機関の3指数を使っていますが、今後も収益率が低い場合には、この指数の見直しをする可能性も出てくるように個人的に思います。

GPIFのESG活動報告は今回がはじめての公表で、今後毎年発行する方針とのことですが、私は肝心のESG活動報告がまだ読めていませんので、出来ればこの週末にでも目を通して、関心のある事項があれば、ブログで紹介したいと思います。

技術研究組合の活用

8月6日の日本経済新聞に技術研究組合の記事がありました。複数の企業・大学が技術研究組合を活用して、共同で産業技術の試験研究を実施する動きが広がっているとのことです。

経済産業省のホームページで次のように技術研究組合の紹介がされております。

技術研究組合は、複数の企業や大学・独法等が共同して試験研究を行うために、技術研究組合法に基づいて、大臣認可により設立される法人で特徴は次のとおり。
<組合>
①法人格を有する大臣認可法人
②組合が賦課金で取得した設備は税制上の圧縮記帳可能(適用期限H33年3月末)
③組合から株式会社等へのスムーズな移行が可能
<組合員>
支払う賦課金について、①試験研究費として費用処理②法人税額から20%の税額控除が可能

また、上記以外に中小企業にとって有利なのは、事業上の意思決定に際して1組織1票が原則とされる点です。

通常の株式会社であれば、出資金額により議決権割合が決まりますので、どうしても高い技術力は有するが、資金力の乏しい中小企業にとっては、経営への影響力が小さくなります。つまり、大企業Aが800万円を投資し、中小企業Bが200万円を出資となりますと、経営に対する支配力はAが80%、Bが20%となります。資本の論理に従い、持つ影響力も決まるということです。

しかし、技術研究組合では、1組織1票ですので、資金力の乏しい中小企業にも有利ということになります。まだ、利用はそれほど多くないようですが、今後、より使いやすい制度とすべく、国立大学が技術研究組合が設立した株式会社の株を持てるようにするなどの環境整備が必要になるということのようです。

ESGアクティビズムとミレ二アル世代

7月23日号の日経ビジネスに「ESGアクティビズムに屈する企業」との記事がありました。

内容は、米スターバックスや米マクドナルドなどでプラスチック製ストローの使用をやめる動きが加速しており、この背景には規制強化の動きだけでなく、「ESGアクティビズム」が企業の背中を後押ししていることが背景にあるということです。

スターバックスにおいては、本年7月9日に米ESG投資推進NGOのAs You Sowがプラスチックストロー禁止の株主提案を行い、機関投資家などの多くの株主が支持をした
ようです。提案自体は否決されたが、30%弱の高い支持を得た模様です。

アクティビストは、事業カーブアウトを提案して業績改善を提案する、キャッシュリッチ企業に対して配当増や自己株式の取得を提案して、株主還元を求めるという提案がほとんどです。

しかし、ESG投資の拡大の動きを背景に、必ずしも株主還元には直結しない環境・社会・コーポレートガバナンスの改革を上場企業に促すESGアクティビズムの活動が米国では増えているようです。

投資ファンドのジャナパートナーズがカリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)と一緒に、米アップル社に対して、子供がスマホに夢中になり勉強に集中できないので、アクセス制限等の対策を講じることを提案したということが少し前の日経新聞にありました。

このESGの動きにはミレニアル世代の関心が高いともいわれています。ミレニアル世代とは、1980年代以降に生まれた世代をいいますが、エシカル消費に関心が高いといわれています。

エシカル消費とは、社会問題の解決に取り組む企業の製品を優先的に購入・消費する考えをいいます。勿論、ミレ二アル世代が全員そうというわけでは当然ないですが、そういう傾向が他の世代と比べて強いということです。

企業にはESG関連の情報の開示が求められておりますが、ESGをないがしろにするとこういった世代からの評価を得ることができず、それだけにとどまらず、ESGアクティビズムにより、企業が予想しない方向に流されていくリスクもあると思います。

ESGの中のE(環境)に関していえば、化学品メーカーなど環境への影響が大きい企業はビジネスの環境への負荷の現状の開示やそれに対する対策を開示すること、また、S(社会)に関していえば、グローバルで発展途上国で安い労働賃金を使いビジネスを行ってる企業は、児童労働規制に違反していないことなどを積極的に開示することが益々大切になってきます。

経産省のCGS研究会(第2期)第8回が開催

経産省のCGS研究会(第2期)の第8回会議が7月24日に開催されました。

この会議は、第5回(4/24)より議事録は公表されないようになっていますので、今回も会議資料のみの公表ですが、資料を読む限りにおいては、次のような討議がなされているようです。

1 グループとしての企業価値向上のためにグループ管理実効性を高める上での参考になるベストプラクティスとしての実務指針
2 実効的な子会社管理のための実効的な方法についての共通項の整理
   - 親子会社双方におけるグループ管理規定の整備
   - 事故・不正の未然防止と早期発見のための情報収集仕組み作り
3 有事対応。不祥事等の有事の場合、グループ企業価値毀損をミニマムにするための親会社の対応についての一定の指針作成

などグループとしてのガバナンス体制が議論されたようです。不祥事などは親会社がグループとしての対応をしていくことがあると思います。

直近ですと、日立製作所の子会社の日立化成という中堅化学メーカーが非常用電源に使う産業用鉛電の検査成績書に不適切な数値を記載する不正行為があったと発表しております。この会社も時価総額6,000億円の大手企業ではあるのですが、親会社である日立製作所のグループ管理能力が問われるような報道がされている印象を持ちました。

5月18日にCGS研究会(第2期)の中間整理が公表されていますが、そこではグループガバナンスについては触れられていなかったかと思いますが、6月22日開催の第7回会議からグループガバナンスが議題になっているようです。

次回は9月5日に第9回会議が開催され、CGSガイドライン改訂案がそこで討議される予定のようです。

公表されているスケジュールでは、2019年2月にガイドライン素案が出て、3月にガイドライン取り纏めとなっておりますので、上場企業にとっては、改訂コーポレートガバナンス・コードに引き続き、また来年も6月の定時株主総会の直前に色々と検討することが増えそうです。

機関投資家の議決権行使基準を詳細に把握することの重要性

7月27日の日本経済新聞に「機関投資家の目 厳しく」とのタイトルで、野村アセットマネジメントの投資先企業の株主総会における株主提案への賛成率が記載されていましたので、これについて触れたいと思います。

本年の4月から6月に開催された定時株主総会についての野村アセットの議決権個別開示結果によりますと、株主提案への野村アセットの賛成率が12%と昨年より5%増えたようです。全129議案の12%に当たる株主提案に賛成したようです。

記事によれば、役員報酬の個別開示や取締役会議長とCEOの分離提案などに賛成したようです。個人的に関心が高いのは、アルパインに対する香港の投資ファンドによる大幅増配の株主提案がアルパイン株主総会では否決されましたが(30%程度の賛成にとどまった)、この株主提案に対して野村アセットは賛成していたようです。

アルパインの財務諸表を見る限りでは、同社は十分なキャッシュリッチで、投資ファンドの提案は極めて論理的な提案であるのですが、否決されたのは、株主提案を理解する能力の乏しい個人株主と「人情」の論理が優先されたことと思いますが、野村アセットは論理的な判断をしたようです。

では、野村アセットの議決権行使基準はどうような規定になっているのでしょうか。

野村アセットは他の機関投資家と異なり、賛成する株主提案の内容を次のとおり明確に定めています。

<野村アセットの議決権行使基準(2017年11月改訂)からの一部抜粋>

株主提案が次のいずれかに該当する定款変更議案であって、かつ、明確で具体性を備えていると判断される場合には、原則としてこれに賛成する。
・役員選任議案における重要な情報の開示を求めるもの
社外取締役を取締役会議長とすることを求めるもの
最高経営責任者が取締役会議長を務めることを禁止又は排除するもの
・取締役でない相談役・顧問等の廃止を求めるもの
企業価値向上と持続的成長の観点から問題と見られる保有株式の売却を求めるもの
・政策保有株式の議決権行使結果の開示を求めるもの

剰余金処分に関する株主提案については、会社提案と比較して判断する

つまり、上記のような株主提案があった場合には、野村アセットは賛成する可能性が高いということです。この基準に照らし判断したことが今回の株主提案への賛成率増加になったのです。

私の知る限りでは、株主提案に対する明確な賛成基準を掲げている機関投資家は現時点では少ないと思いますが、今後、野村アセットのように明確な議決権行使基準を制定する機関投資家が増えるのかも知れません。

国内機関投資家各社は、毎年12月頃から来年の株主総会の議決権行使の判断基準の見直し作業に入りますが(機関投資家は毎年見直しをします)、上場企業各社はそのタイミングで機関投資家とのエンゲージメント(対話)を実施して状況をウォッチしておかないと、機関投資家の議決権行使基準に照らした株主提案が自社の機関投資家からなされ、この対応で多大な労力を割くことになる可能性があります。

これまで一般の事業会社では、3月末と9月末時点の自社の株主の実質株主判明調査を業者に依頼して分析結果は把握しているかと思いますが、その後、各実質株主(=機
関投資家)の議決権行使機基準まで詳細分析することは少ないと思います。この議決権行使基準の精査が今後重要になります。

一方、個人投資家の目線で見ると、機関投資家の議決権行使基準を丹念に分析した上でその基準に即した株主提案をすれば(単独又は複数株主の合計で300単位必要です)、それに賛同する機関投資家も増え、自分の株主提案で企業に色々と提案が出来ることになります。個人投資家投資ファンドと同様に「物言う株主」になれます。

このように企業及び個人株主の双方にとって機関投資家の議決権行使基準は、今後ますます重要な情報となると思います。

海外・日本の投資規制について②

前回米国の海外からの投資規制について説明しましたが、今回は、EUと日本の海外からの投資規制についてポイントのみ説明します。

EUですが、ドイツ、フランス等の各国で外資規制はあり、最近改正がされています。しかし、新聞報道にもあるとおり、現在は、さらに欧州統一の審査規制を制定する方向での議論が進んでいるようです。つまり、各国ごとに異なっている現在の基準を統一するということです。

次に日本の投資規制についてみると、外為法があり、海外投資家が一定の業種の日本企業の株式を10%以上取得する場合には、事前に財務大臣及び事業所管大臣に届出を行い、取得可否の審査を受けることが義務付けられています。

この外為法の投資規制は昨年10月に改正され、届出なく株式を取得した場合には売却命令等を行うことができることになりました。しかし、売却命令を無視した場合には、当該売却自体を取消すまでは出来ません。

米国の場合には、事前審査を得ないでなされた投資については、取引のクロージング後でも中止させる効力があるのですが、この米国の規制と比べて日本の規制は弱いことが指摘されています。

米国・EUでの投資規制強化の背景には、中国投資家対応があります。

では、その中国の様子はどうなっているかといいますと、中国政府は2015年5月に産業政策「中国製造2025」を公表しています。これは、次世代情報技術やロボット等の10の重点分野を設定し、製造業の高度化を目指す野心的な計画といわれています。

中国製造2025は長期戦略の第1段階といわれており、次のような3つの段階があります(日経新聞 2018年7月2日)。

第1段階(2015年~2025年)世界の製造強国の仲間入り(中国製造2025))
第2段階(2025年~2035年)世界の製造強国の中等水準へ上昇
第3段階(2035年2049年)世界の製造強国の先頭グループへ躍進

このように中国政府の方針の下、中国企業は今後製造業を強化していく方向にありますが、この脅威もあり、米国・欧州の投資規制は強化されています。

とすると、中国企業は、投資先としては規制の緩い日本企業に向かうような気がどうしてもいたします。

 

海外・日本の投資規制について①

先日、新聞記事を整理していたところ、6月20日の日本経済新聞に「中国M&A阻止の動き」とうタイトルで外資による対内投資規制として、米国・欧州・日本の規制についてごく簡単に触れていました。

本年の6月株主総会の企業では、買収防衛策議案の反対率が2桁台とダントツで高かったようですが、買収防衛策継続の理由として日本の対内投資規制が弱いことを、明言しないまでも、実質的な理由にあげている企業も多いと思いますので、本日は、日本・海外の投資規制について、2回に分けて説明したいと思います。

まず米国ですが、米国では規制に関しては、対米外国投資委員会(CFIUS)があり、CFIUSは米国の国家安全保障に影響がある外資による米国企業の投資について、大統領に取引停止・中止命令の発動を促します。

CFIUSの申請をしないでM&Aがあった場合には、取引のクロージング後であっても大統領はM&Aを阻止することができます。対象になる取引は政治的動向により左右されることもあるようです。

2016年以降に中国企業による米国企業の買収において、大統領が取引の停止を求めた事例が数件ありますが、水面化ではこの2年間で数十件の取引を断念させてきたようです。2017年は、約20件の取引が事実上制限され、特に中国資本による米国企業への投資に厳しいといわれています。

なお、米国では、現在、CFIUSの権限許可の法案が昨年11月に両議院に提出され、現在審議中です。

改正は、最近の中国資本による米国企業への投資への懸念が背景にあるといわれており、米国のテクノロジー関連の領域、特にスタートアップ段階のベンチャー企業を保護することが狙いの1つとされているようで、現在は中止権限はあくまで大統領ですが、改正法では、CFIUS自体に中止権限を付与することなどが検討されている模様です。

このように米国では現在も強い規制があるところ、更なる規制に向けて動いているようです。

次にEUと日本ですが、これは纏めて次回、説明したいと思います。

投資先企業の利益剰余金が少ない場合の配当原資の見方(資本剰余金を原資とする配当)

先日、「配当性向だけでなく配当原資を良く理解しましょう」というタイトルの記事を書きましたが、これに関連して、今回は利益剰余金が少ない又はマイナスの場合の剰余金の配当原資について説明したいと思います。

バランスシートを見ると、当期純利益が大赤字で利益剰余金が小さくなっており、投資先企業が無配とした場合、「やむを得ない」と考える個人投資家の方も多いと思います。しかし、配当原資は会社法上、利益剰余金だけではありません。

剰余金の配当は、通常は、バランスシートの利益剰余金から行うのが一般的です。

では、利益剰余金が十分でない企業やマイナスになっている企業は配当できないのでしょうか。例えば、当期純損失が数期連続し、利益剰余金が大きく毀損してしまっている場合です。

この場合であっても資本剰余金からの配当が検討できます。

資本剰余金とは、増資などの際に株主から払い込まれた出資金のうち資本金に組み入れられなかった分をいいます。より正確にいいますと、資本剰余金は、「資本準備金」と「その他資本剰余金」で構成され、資本準備金からは配当できないので、「その他資本剰余金」が配当原資ということになります。

利益剰余金が例えばマイナスの場合であっても安定配当を配当施策として表明している企業は、資本剰余金からの配当を検討することがあります。

資本剰余金を原資とする剰余金の配当を実施している企業をいくつかあげますと、TSIホールディングスフィスコスシローグローバルホールディングスユニデンホールディングスなどがあります。

この中でユニデンの2018年3月期の決算短信でバランスシートの株主資本の内容を見ると次のようになっています。

資本金    18,000百万円
資本剰余金  28,851百万円
利益剰余金      59百万円
自己株式   -7,335百万円
株主資本合計 39,575百万円

これを見ると、利益剰余金が少ないため資本剰余金を配当原資としたことに納得できるかと思います。

ただし、資本剰余金を原資とする配当は、株主から払い込まれた「資本の払い戻し」に当たりますので、通常の利益剰余金を原資とする配当と異なり、税務上は「みなし配当益」のほかに「みなし譲渡益」が生じます

配当に絡む税務は、私は不勉強のところがあるので、あまり詳細は語れませんが、税法上は、「みなし配当」と呼ばれる利益配当の部分と「みなし譲渡」と呼ばれる株式譲渡対価部分に区分され、株主の手続が少々面倒なようです。

個人投資家の方は、投資先企業のバランスシートを見て、利益剰余金が少なくても資本剰余金が一定程度あり、かつ、バランスシートの資産の部(左側です)に十分な現金があるのであれば、「この企業は配当余力があるのではないか」との観点から投資先企業を見る必要があるかと思います。

とは言ってもだまって見ているだけで配当が実施されるものでもありませんので、個人投資家は、「資本剰余金が潤沢にあるのでこれを原資に配当を実施せよ」ということを株主提案することが必要になると思います。

個人投資家は配当性向だけではなく、配当原資を良く理解しましょう

先日の日経新聞で配当性向の記事がありました。日本企業の配当性向は30%台が多く、欧米企業に比べて見劣り、株価を抑える要因になっているということです。

ちなみに、財務改会計の初歩的な用語ですが、配当性向とは、配当支払額÷当期純利益(%)で示されます。記事によると各国の配当性向は、次のとおりです。

日本企業    30%(大手企業中心の500種平均株価の構成銘柄31.1%)
米主要500社 47%
アジア主要企業 36%

日本企業の配当性向は少ないことは以前より言われております。何故30%なのか疑問
ですが、これまでも1つの目安として30%を基準としている企業も非常に多いと思います。個人的な投資先企業のスクリーニングをしていても、配当性向30%で設定している企業が多く見られます。

ここで、個人投資家が理解すべき重要なことは、配当性向30%は何の基準にもならないということです。

前にもブログで書きましたが、配当は、バランスシートの純資産に中にある「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」が原資になり、これとバランスシートの左側の現金及び預金の金額を見ることになります。

配当性向とはその他利益剰余金の中の項目である繰越利益剰余金に積み立てることができる当期の純利益のうち、どの程度が配当支払に当てられているかを示す指標であり、30%を基準にする意味など全くないといってよいと思います。つまり、配当原資とこの原資に見合った現金が潤沢にあれば、配当性向が100%を超えるべきことも当然のことなのです。

個人投資家の方は、自分の投資先企業の財務諸表を見て、配当性向ではなく、バランスシートで配当原資と現金及び預金の数値を見ることをお勧めします。

そうすれば、配当性向30%とあっても、何ら満足すべき数値ではなく、「この企業は株主還元余力がもっとあるではないか」ということも良く理解できます。

 

アクティビストが個人株主の賛同を得るには「良く分かる株主提案」のような小冊子が必要

直近のビジネス誌「日経ビジネス」に「うまい話に乗らない株主」とのタイトルで、本年の株主総会でアクティビストの勝利はわずかであったとの記事が出ていました。

本年6月総会の企業のうち、株主提案は41社あったが、株主提案が可決されたのはわずか2件とのことです。

同記事に議決権行使の分析関係者のコメントとして、「国内機関投資家は会社が課題の改善姿勢を見せている限り会社提案に反対しなかった傾向が強かった」とのことです。株主提案が、ファイナンスをベースにした資本の論理上は正しくても、個人投資家などは、意外に株主提案には賛成を入れていないようです。

アクティビストの提案は、個人投資家の多くから、原理主義者のように見えてしまうとも記事に書いてありました。

これは私の想像ですが、個人株主の多くは高齢者であり、極端な増配による金銭メリットの享受より、少ないながらも配当を従前どおり得られるのであれば、異質なアクティビストの提案よりも会社提案に賛成しようという「情けの論理」が優先していることが理由の1つにあるのではないでしょうか。

たしかに論理的に正しくても、以前の村上ファンド村上世彰氏のように、「めちゃくちゃもうけました」のような発言が高齢者であるごく普通の一般個人投資家に受け入れられないのは納得できるところでもあります。

では、このように資本の倫理は日本の個人投資家の賛同を得がたいということは来年以降も続くのでしょうか。

私は、来年からは状況に変化が出てくるように考えます。金融庁東証が改訂コーポレートガバナンス・コードで、政策保有株式の縮減や事業ポートフォリオの見直しを促進しており、その対応をする企業も今後は相当増えてきます。

政策保有株式の売却により、他社が配当を増やすことになれば、政策保有株式を変わらず持ち続ける企業の個人株主は、違和感を覚えるのではないでしょうか。

A社は、政策保有株式を売却して配当を増やす、また、自己株式の取得による株主還元を進めているのに、B社は、政策保有株式が潤沢にあるにもかかわらず、縮減をしない、または縮減をしてもキャッシュが溜まるだけで、増配・自己株式取得といった株主還元をしないのであれば、「これはおかしいぞ」という具合になるはずです。

株主提案に賛成するには特に難しいものでもなく、会社から株主総会の招集通知に同封されてくる、議決権行使書の「株主提案」の欄に「〇」をつけるだけの話です。

また、今の40代以下の方は、転職経経験者も多く、転職とは縁のない60代、70代以上の終身雇用の世界で生きてきた高齢者と比較して、ドライに物事を判断するような傾向にあるように思えます。

ということを考えると、終身雇用制度が崩れている40代、30代の世代の個人株主は、配当増を提案するアクティビスが出現した場合には、躊躇なくその提案に賛成することになるのではないでしょうか。私などは投資のリターンが増えることにしか関心はないので、何のためらいもなく株主提案に賛同をします。

とは言っても、現時点では、やはりあまり大胆な株主提案が日本企業の株主に受け入れられるにはまだ時間がかかると思いますので、投資ファンドは、ファイナンスコーポレートガバナンスといった専門知識の理論武装に加えて、日本的な慣行を踏まえた「ソフトな提案」が必要になるのでしょう。

個人株主の圧倒的多数は、ROEという言葉をかろうじて知っている程度で、ROEの意味するところ、ファイナンスの基礎、会社法などを知らない方ばかりなので、株主提案の意味を「分かりやすい株主提案」「分かりやすいコーポレートガバナンス」のような小冊子にして、投資先企業の個人株主に郵送して(株主名簿閲覧権を使えば株主は判明します)、まずは理解をしてもらうなどの工夫が必要であるのかも知れません。

上場企業の効果的な個人株主対応

先日の日本経済新聞で「個人 進む二極化」との記事がありました。個人株主数が2017年度に5,000万人を超え5,129万人で過去3年で12%増えた一方で、保有額の大きい高齢者は持株の処分に動いているということです。

私の認識では、日本企業全体(コーポレートジャパンと私は言っています)に占める個人株主は、高齢層が多いように思います(正確なデータを見たわけではないので、間違っているかも知れません)。理由は、個人で株式を購入できるには一定程度の資金が必要なためです。しかし、高齢者は相続を見据えて株式の売却に動いています。上場株は、相続税の評価で優遇措置がないため、売却して現金に代えるという動きがあるということです。

一方、政策保有株式の縮減の動きが今後加速し、政策保有株主は会社に文句を言わない「物言わぬ株主」であったのですが、それに代わる安定株主を企業は今後確保する必要があり、その1つとして個人株主を上場企業各社は今後増やしたいとい切実な課題がありあります。高齢でない個人株主の増加を各社模索することになります。

ただ、所詮は個人であり、かつ、年齢層も若いため、事業で成功したようなごく握り富裕層を除けば、資金力も限度があります。とすると、個人株主を増やそうと企業は頑張っても個人株主の「数」は増えても、肝心の「保有比率」の増加には結びつきにくいという現実があります。わずか1,000株程度の株式を保有する個人ばかりが増えて、この個人が色々と瑣末な提案を会社に主張したりするとその対応が大変になります。このため、企業としては、最低でも1万株程度は購入できる資金力のある個人株主に株式を保有してもらう必要があります。

とすると企業は、自社の個人株主を、保有株式数1万株の個人株主を重要ターゲットで層として、マーケティング手法であるRFM分析でこれを更に層別する必要があると思います。

RFM分析とは、いつ商品を購入したか(Recency:最新購買日)、どの程度の頻度で購入しているか(Frequency:購買頻度)、いくらの購買金額か(Monetary(購買金額))で顧客を層別して、対応をすることであり、これを個人株主に当てはめるのです。

つまり、①1万株をいつ保有したのか、②どの程度の頻度で購入しているのかです。例えば、10年前から保有している個人であれば、会社が特段の措置を行わなくても保有を継続するでしょうが、最近になって購入した株主には、会社の状況をよく知ってもらうために会社として手厚いサービスをするというものです。

既にこういう活動を実践している上場企業も多いのではないかと思いますが、これからはじめて個人株主増加施策を検討する企業は、今後、こういった手法を検討すれば良いかと思います。

本日はこれで終わりますが、最近、自分の株式投資の目的で四季報オンラインを使い、土日に自宅で投資先企業のスクリーニングをやっています。

これまでもブログで個人株主のアクティビズムの可能性等について書いてきましたが、資金力の乏しい個人投資家が投資先企業に株主としての権利行使を行い、これにより、株主価値の向上策を投資先企業に実施させることを前提とした投資先候補企業のスクリーニング方法について、次回または次々回に掲載したいと思います。

書評:「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門」

本日は久しぶりに書籍の紹介をしたいと思います。講談社+α新書から出た「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい- 人生100年時代の個人M&A入門」という本です。

タイトルが面白かったので購入して読んでみました。著者は、元SBIインベスメントなどでの勤務経験のある三戸政和という方です。専門書でもなく、じっくり勉強するような書籍でもないので、2時間半程度でさっと読むことが出来ました。

本の内容は、一言でいうと、大手企業で役員になれないサラリーマン(部長・課長などの一般従業員)が役職定年後に余裕のある暮らしをするには、40代半ば頃から準備をはじめ50代半ば以降に個人M&Aを行い、資本家を目指しなさいというものです。

さらに少しだけ纏めますと次のような内容です。

1.大手企業で役員になれずに50代後半で役職定年を迎えた部長・課長の一般従業員の年収は、役職定年後は400万円から500万円がほとんど。役員になったサラリーマンとの格差が激しい
2.ゆとりある老後を送るには、資本家になる道を探す必要があり。つまり自らが資本家となること
3.資本家となるには、自ら事業を1から立ち上げることもあるが、これは99%借金を背負って失敗するからやめなさい。そもそもサラリーマンは、事業を1から立ち上げた経験もなければ能力もない。事業をゼロから立ち上げて成功する人間は、サラリーマン社長を含めたサラリーマンとは住んでいる世界が違う
4.一方、既に存在する企業を買収することは成功の可能性あり。大手企業のサラリーマンは管理能力もあり、また、大手企業での経験を活かして、対象企業の業績改善を図ることが可能であり、自分の経験を活かすことができる
5.40代半ばを過ぎたら50代後半で個人M&Aを行い、投資家になることを目指すべし。業績改善によりオーナーとして配当収入を得ることができほか、会社の売却によりキャッシュを得ることも出来る

簡単に纏めると上記のような内容かと思います。

先日、役職定年を迎えた大手企業の部長は、役職定年後の年収の低さから、中小企業(上場企業)の社外取締役になる道を探ることをブログで書かせて頂きましたが、同じことが本書のベースにあります。

50代後半以降の残りの人生を低収入のまま元の勤務先で惨めに過ごすよりも、個人M&Aをして資本家になりなさいという趣旨は良く分かります。

しかし、あたり前ですが、会社を買っても、必ずしもうまく経営がいくことがないのも事実です。中小企業のオーナーが高齢で自分の子供が事業を継承しないため廃業する、または、日本M&Aセンターといった国内の未上場専門のM&A仲介会社を使って会社を売却することが多いのはご存知かと思います。

儲かるビジネスであれば、オーナーは息子に継がせるのであり、息子は親父の会社を継ぐより、サラリーマンをやった方が稼げると判断して後をつがないのであり、そのような会社を個人M&Aで買収して資本家となっても大きな収入を得るのは難しいことでしょう。特に300万円程度でオーナーが株式を手放すような会社の営業利益、純利益などはたいしたものではないことは容易に想像できます。

ただ、著者のいうように、大手企業の部長などの一般従業員はそれなりの管理能力や専門知識があり、それをうまく活かせば、大きな収入も得られる可能性もあるのかも知れません。

著者によれば、未上場の中小企業は大手企業の方がびっくりするくらい当たり前のことが出来ていないことが本当に多く、普通に大手企業で業務をしてきたという経験自体が、中小企業では1つの財産になり得るというようなことが書いてありました。

書籍の内容は全く深いものでもなく、じっくり真面目に腰をそえて読むようなものでは全くないのですが、自己啓発の類の書籍として面白いと思いました。

経産省のCGS研究会(第2期)の今後の予定

先日6月22日に経産省のCGS研究会(第2期)の第7回会議が開催されました。

本年夏ごろに改訂CGSガイドライン案が公表されるとの予定ですが、第8回以降の今後の予定も公表されました。

第8回(7月) グループガバナンス「守り」の論点②
第9回(9月) CGSガイドライン改訂案について
第10回(10月) グループガバナンス「攻め」の論点
第11回(11月) 経営幹部の選任(グループにおける指名委員会の役割等)
第12回(12月) 経営陣幹部の報酬設計(グループにおける報酬委員会の役割等)
第13回(1月)その他論点、とりまとめ骨子案
第14回(2月)ガイドライン素案
第15回(3月)ガイドラインとりまとめ

第5回会議から第7回会議までは議事録が公表されていませんので、議論の状況がよくわかっていませんが、第7回では守りのガバナンスが議論されたようです。

なお、5月18日に公表された中間整理によれば、今後の対応の方向性として、社外取締役の再任基準の設定、指名・報酬委員会活用のベストプラクティスの整理、経営幹部の報酬方針や設計の在り方のベストプラクティスの整理、業務執行者以外が取締役会議長を務めることが望ましい場合の整理とされています。

これらが9月5日公表予定のCGSガイドライン改訂案に盛り込まれることと思われます。

6月1日に公表されたコーポレートガバナンス・コードの対応が本年12月末までとされており、このCGS研究会(第2期)のガイドラインとりまとめが来年3月とされています。また、買収防衛策の廃止の動きが加速する中、物言う株主の動きが益々活発化し、日本市場でも市民権を得る方向にも向かっております。

企業各社は通常は年明けから総会準備をはじめると思いますが、先日の日本経済新聞の記事では、総会修了後には来年の総会の準備を開始する企業が今後増えるであろうと書かれておりました。今年の夏休み明けには、コーポレートガバナンス改革の関連で来年の総会準備を開始する企業が増えることと思います。