中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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機関投資家の議決権行使基準を詳細に把握することの重要性

7月27日の日本経済新聞に「機関投資家の目 厳しく」とのタイトルで、野村アセットマネジメントの投資先企業の株主総会における株主提案への賛成率が記載されていましたので、これについて触れたいと思います。

本年の4月から6月に開催された定時株主総会についての野村アセットの議決権個別開示結果によりますと、株主提案への野村アセットの賛成率が12%と昨年より5%増えたようです。全129議案の12%に当たる株主提案に賛成したようです。

記事によれば、役員報酬の個別開示や取締役会議長とCEOの分離提案などに賛成したようです。個人的に関心が高いのは、アルパインに対する香港の投資ファンドによる大幅増配の株主提案がアルパイン株主総会では否決されましたが(30%程度の賛成にとどまった)、この株主提案に対して野村アセットは賛成していたようです。

アルパインの財務諸表を見る限りでは、同社は十分なキャッシュリッチで、投資ファンドの提案は極めて論理的な提案であるのですが、否決されたのは、株主提案を理解する能力の乏しい個人株主と「人情」の論理が優先されたことと思いますが、野村アセットは論理的な判断をしたようです。

では、野村アセットの議決権行使基準はどうような規定になっているのでしょうか。

野村アセットは他の機関投資家と異なり、賛成する株主提案の内容を次のとおり明確に定めています。

<野村アセットの議決権行使基準(2017年11月改訂)からの一部抜粋>

株主提案が次のいずれかに該当する定款変更議案であって、かつ、明確で具体性を備えていると判断される場合には、原則としてこれに賛成する。
・役員選任議案における重要な情報の開示を求めるもの
社外取締役を取締役会議長とすることを求めるもの
最高経営責任者が取締役会議長を務めることを禁止又は排除するもの
・取締役でない相談役・顧問等の廃止を求めるもの
企業価値向上と持続的成長の観点から問題と見られる保有株式の売却を求めるもの
・政策保有株式の議決権行使結果の開示を求めるもの

剰余金処分に関する株主提案については、会社提案と比較して判断する

つまり、上記のような株主提案があった場合には、野村アセットは賛成する可能性が高いということです。この基準に照らし判断したことが今回の株主提案への賛成率増加になったのです。

私の知る限りでは、株主提案に対する明確な賛成基準を掲げている機関投資家は現時点では少ないと思いますが、今後、野村アセットのように明確な議決権行使基準を制定する機関投資家が増えるのかも知れません。

国内機関投資家各社は、毎年12月頃から来年の株主総会の議決権行使の判断基準の見直し作業に入りますが(機関投資家は毎年見直しをします)、上場企業各社はそのタイミングで機関投資家とのエンゲージメント(対話)を実施して状況をウォッチしておかないと、機関投資家の議決権行使基準に照らした株主提案が自社の機関投資家からなされ、この対応で多大な労力を割くことになる可能性があります。

これまで一般の事業会社では、3月末と9月末時点の自社の株主の実質株主判明調査を業者に依頼して分析結果は把握しているかと思いますが、その後、各実質株主(=機
関投資家)の議決権行使機基準まで詳細分析することは少ないと思います。この議決権行使基準の精査が今後重要になります。

一方、個人投資家の目線で見ると、機関投資家の議決権行使基準を丹念に分析した上でその基準に即した株主提案をすれば(単独又は複数株主の合計で300単位必要です)、それに賛同する機関投資家も増え、自分の株主提案で企業に色々と提案が出来ることになります。個人投資家投資ファンドと同様に「物言う株主」になれます。

このように企業及び個人株主の双方にとって機関投資家の議決権行使基準は、今後ますます重要な情報となると思います。