中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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投資先企業の利益剰余金が少ない場合の配当原資の見方(資本剰余金を原資とする配当)

先日、「配当性向だけでなく配当原資を良く理解しましょう」というタイトルの記事を書きましたが、これに関連して、今回は利益剰余金が少ない又はマイナスの場合の剰余金の配当原資について説明したいと思います。

バランスシートを見ると、当期純利益が大赤字で利益剰余金が小さくなっており、投資先企業が無配とした場合、「やむを得ない」と考える個人投資家の方も多いと思います。しかし、配当原資は会社法上、利益剰余金だけではありません。

剰余金の配当は、通常は、バランスシートの利益剰余金から行うのが一般的です。

では、利益剰余金が十分でない企業やマイナスになっている企業は配当できないのでしょうか。例えば、当期純損失が数期連続し、利益剰余金が大きく毀損してしまっている場合です。

この場合であっても資本剰余金からの配当が検討できます。

資本剰余金とは、増資などの際に株主から払い込まれた出資金のうち資本金に組み入れられなかった分をいいます。より正確にいいますと、資本剰余金は、「資本準備金」と「その他資本剰余金」で構成され、資本準備金からは配当できないので、「その他資本剰余金」が配当原資ということになります。

利益剰余金が例えばマイナスの場合であっても安定配当を配当施策として表明している企業は、資本剰余金からの配当を検討することがあります。

資本剰余金を原資とする剰余金の配当を実施している企業をいくつかあげますと、TSIホールディングスフィスコスシローグローバルホールディングスユニデンホールディングスなどがあります。

この中でユニデンの2018年3月期の決算短信でバランスシートの株主資本の内容を見ると次のようになっています。

資本金    18,000百万円
資本剰余金  28,851百万円
利益剰余金      59百万円
自己株式   -7,335百万円
株主資本合計 39,575百万円

これを見ると、利益剰余金が少ないため資本剰余金を配当原資としたことに納得できるかと思います。

ただし、資本剰余金を原資とする配当は、株主から払い込まれた「資本の払い戻し」に当たりますので、通常の利益剰余金を原資とする配当と異なり、税務上は「みなし配当益」のほかに「みなし譲渡益」が生じます

配当に絡む税務は、私は不勉強のところがあるので、あまり詳細は語れませんが、税法上は、「みなし配当」と呼ばれる利益配当の部分と「みなし譲渡」と呼ばれる株式譲渡対価部分に区分され、株主の手続が少々面倒なようです。

個人投資家の方は、投資先企業のバランスシートを見て、利益剰余金が少なくても資本剰余金が一定程度あり、かつ、バランスシートの資産の部(左側です)に十分な現金があるのであれば、「この企業は配当余力があるのではないか」との観点から投資先企業を見る必要があるかと思います。

とは言ってもだまって見ているだけで配当が実施されるものでもありませんので、個人投資家は、「資本剰余金が潤沢にあるのでこれを原資に配当を実施せよ」ということを株主提案することが必要になると思います。