中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

改訂コーポレートガバナンス・コードを踏まえた個人株主のアクティビズムの可能性(4)

 改訂コーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)について、残りの資本コストと事業ポートフォリオについて纏めてみます。

今回の改訂CGコードについては、4月29日までを金融庁パブリックコメントの締め切りとし、その後、経団連、経営法友会、消費者庁などが意見を公表しています。現時点では、改訂CGコードはまだ確定はしていませんが、今回の改訂における大きな点は政策保有株式が1つありますが、資本コストと事業ポートフォリオの改訂も大きな点になるかと思います。

<改訂CGコード>
(1)資本コストの的確な意識の上での経営戦略の策定
(2) 事業ポートフォリオの見直し、設備投資、R&D投資等を含む経営資源の配分

まず資本コストですが、だいぶ前にもブログで書きましたが、資本コストとは会社に資金を拠出する債権者と株主に対して企業が負担するコストをいいます。つまりこれは債権者と株主から見れば、投資による期待収益率(リターン)のことをいいます。

負債コストと株主資本コストを加重平均して資本コストを出します。そして、(1)と(2)は別々ではなく、セットで捉える必要があります。

つまり、(2)の意味は、(1)の資本コストである投資家の期待収益率を上回る収益を生まない事業は企業は見直しをせよ、簡単にいうとカーブアウト(事業売却)せよということです。

収益性の有無の判断基準は色々ありますが、複数事業を営む企業であれば、ROICが指標になるかと思います。ROICとは、投下資本利益率になります。例えば、ある企業がA事業、B事業の2つの事業セグメントを持つとすると、A事業のROICは次のとおり計算します。

ROIC=A事業の営業利益÷(A事業の現金+A事業の運転資本+A事業の有形固定資産)×100%

これがこの企業の資本コストを下回るのであれば、カーブアウト等を検討せよということですが、これを個人株主アクティビズムに結び付けて考えたいと思います。

まず資本コストを把握する必要があります。資本コストは、ファイナンスの専門家であっても数値(より正確には株主資本コストのβ値)にばらつきがあり、個人の方が正確に計算するのは、少し難しいですが、ブルームバーグを利用すれば株主資本のβ値は出てくるので、それを使えばよいかと思います。

次に考えるのは、前述のとおりA事業のROICを算出することです。これが重要です。では、どうやって数値を拾えばよいでしょうか。

結論からいうと株主が得られる情報は企業の開示情報しかないので、正確な算出は難しいです。なぜならば、企業は、事業別の現金、運転資本、有形固定資産までは開示していないのが通常だからです。そこでざっくりとしたレベルで計算せざるを得ません。

分子であるA事業の営業利益は開示されています。問題は分母の数値ですが、A事業とB事業の構造が大きく異ならないのであれば、バランスシートに掲載されているこの企業の全体の現金、運転資本、有形固定資産の数値を、A事業の売上構成比で按分することになります。

つまり、A事業とB事業の売上高構成比がA事業40%、B事業60%となっているとすれば、バランスシート上の現金、運転資本、有形固定資産の各々の40%をA事業のROICの分母とするのです。ただし、A事業とB事業の事業内容が大きく異なるのであれば、例えば、A事業が半導体製造、B事業が小売といった場合には、按分比率は極めて不正確なもになります。

これにより算出したROICが資本コストを下回るようであれば、事業のカーブアウトを提案するという流れになります。ごくシンプルに考えるとこのような内容になります。

もっともこれは極めてざっくりとした分析ですので、最初から「A事業のROICは資本コ
ストを下回るので事業売却をしろ」との株主提案をするのは正確性が欠けるので、他の
の株主の賛同を得るのはまず難しいでしょうから、まずは株主総会に出席して、事前に自分で算出した数値を手許に持って、これに関するを投げかけることになるのでしょう。

株主総会においては、取締役・監査役は総会議題と関係のない質問の回答は法的に拒絶できますので、株主としては、上手く事業報告と絡めて質問をすることになるとは思います。

その上で、再度、数値の正確度を高めて、株主提案をしていくというステップになるのだろうと思います。このような事業のカーブアウトの提案は、M&Aアクティビスムということになります。

M&Aアクティビスムは、株価に与える影響が大きいと思います。というのも営業利利益率の低迷事業を切離せば、営業利益が改善され、企業の業績見通しの変化も大きいので、株価向上への効果大です。しかし、実際には M&Aアクティビスムの難易度は高く、精度を高めるには、場合によっては戦略コンサルなどの外部業者を使うほか、A事業の外部環境分析などのマクロ分析も緻密に行うことが必要になると思います。

M&Aアクティビズムの根本的な考え方はシンプルと私は思いますが、個人株主が事業のカーブアウトを提案して、他の株主の賛同を得るのは、なかなか難しいところがあるかとは思います。