中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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米国の議決権行使助言会社であるグラスルイスの取締役会の多様性に関する要求

1月8日付の日本経済新聞で米国の議決権行使助言会社であるISSジャパンの日本法人代表の石田猛行氏とグラスルイスのシニアディレクターである上野直子氏の企業の取締役会の多様性に対するコメント記事が掲載されていました。

議決権行使助言会社とは、株主総会株主総会には定時株主総会、臨時株主総会の2つがあります)において、提案議案に対して賛成又は反対のいずれかを機関投資家に推奨する会社になります。

ISSの石田氏の意見は、雑誌等でも良く見かけるのですが、グラスルイスの上野氏のコメントはそれほど見かけない(1年以上前にセミナーに参加した時は上野氏は米国在住ということでした)のですが、上野氏のコメントは次のような内容です。

・グラスルイスは議決権行使基準を改定し、女性の取締役・監査役が1人もいない企業では、原則として、経営トップの取締役選任議案に反対を推奨することにし、対象企業は2019年2月よりTOPIX100の構成企業

・但し、形式的に線引きするのではなく、反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける

・今回の改定基準でも、「今後女性取締役を登用する予定」などの開示を行う企業には反対推奨しない。企業の情報開示がカギになる。情報を積極的に公開する企業ほど正 確に判断できる

グラスルイスの今般の改定基準は、企業でIR部門、経営企画部門、総務・法務部門はじめ株主総会に関連する部門の方にとってはご存知の内容かとは思いますが、上野氏のコメントによれば、「反対推奨前に必ず検証し、例外を設ける」という点が女性役員の少ない多くの日本企業各社にとって関心ある事項かと思います。

例外の具体的基準は記事では書かれていませんので、不明ですが、現実には個社別の状況に照らして判断されることと思いますので、基準がないのも当然かも知れません。女性活用は、取締役会の多様性の1つの考えでありますが、まずは、多様性についてあらためて考えてみたいと思います。

まずは取締役会の重要な機能には、企業の中長期的な観点から戦略を討議することにあります。このため、中長期的な戦略を立案するに適したメンバーで取締役会は構成される必要があるというのが多様性の前提にあります。

一方、事業領域や顧客が誰であるかは企業によって全く異なります。例えば、売上高の多くが海外に依存しているグローバル企業であれば、グローバルに精通した外国人のマネジメントが必要になるかも知れませんし、また、このグローバル企業が女性向けの製品を販売しているのであれば、女性の外国人のマネジメントが必須になるかも知れません。例えば、グローバル展開をしている女性向けアパレル専業メーカーが、中高年の男性マネジメントで構成される取締役会で中長期戦略を策定しているということは、見方によっては少しおかしな話と思います。

また、企業が既存の事業領域を広げて新規事業に軸足を移すことを考えているのであれば、この新規事業に精通したマネジメントが必要になるかも知れません。このように、事業領域と顧客が誰であるかによって、企業に必要となるマネジメントの多様性は異なるのです。

とすると、画一的に女性取締役を起用ということは少し話が飛躍している気がします。そもそも女性の母集団が少ない中、その中から無理やり取締役を選定するとなると、能力のない者が取締役につくことになります。

勿論、企業社会では、これまで女性がマイノリティーであったということも現実であり、男女の昇格機会の平等という観点から一律に女性取締役を起用するという社会的観点からの議論もあるかも知れません。これはこれでたしかに重要と思います。

しかし、一方、企業はあくまで営利集団であるので、中長期的に亘って「お金を儲ける」という観点から、各企業の経営戦略立案のメンバーとしてどういう人材が適切であるのかを明確にすることがまず重要であり、その上で、エンドユーザー向けのビジネスを行う企業であれば、当然に女性の目線が必要になるので、女性取締役が必要という議論に発展していくべきものと思います。

グラスルイスは、女性取締役の起用が企業の中長期的成長の上では重要と判断して、基本となる基準を設定したことになりますので、もし、その原則の例外をグラスルイスに認めてもらうには、女性を起用しないことの明確な理由を、企業は開示することが求められることになると思います。