米国カリフォルニア州が米国上場の州内企業に対して2019年までに女性取締役の設置を義務付けるとの報道が少し前の日本経済新聞でありました。
カリフォルニアに本社を置く米国での上場企業が対象で、まずは2019年末までに少なくとも1名を女性にすることを義務付けるようです。さらに2021年までに取締役総数5名の企業では女性を最低2名、6名以上の企業では最低3名を義務付け、違反企業には初回で10万ドルの罰金が科されるとのことです。
女性が活躍しているように見える米国でも女性取締役比率は21%程度で、決して多くはなく、米国でも義務化により一気に女性の経営陣を増やそうという流れのようです。
この記事で気になったのでは、女性取締役のいる企業のROEは女性取締役のいない企業より2%程度高く、12%とのことが書かれていました。
しかし、女性取締役とROEの高さは関係ないと私は思います。その点でこの記事は女性取締役とROEの因果関係を明確にしないまま書かれている表現の適当な記事であると感じました。
そもそも女性取締役が1、2名いてどうしてROEが上がるのでしょうか?
論理的に考える必要があります。ROEを分解すると、①売上高当期純利益率 ②総資産回転率 ③財務レバレッジに分解できます。ROEが向上するということは、これらのいずれかが改善する必要があります。
まず②と③ですが、これは企業全体として取り組むべき課題で、女性取締役が1、2名いようがいまいが影響のないことです。要するに会議体である取締役会としてどういう戦略を立てられるかということです。
一方の①ですが、たしかに収益の柱になる部門のトップに女性を起用して、女性目線でマーケティングをする企業であれば、女性役員起用が①の改善に関係することも考えられると思います。しかし、収益を稼ぐという企業の「本流」から外れた部門であるCSR、法務、経理といった間接部門に女性取締役を起用した場合には、①の改善には関係ないと思います。
とすると、要は女性取締役を起用したからROEが改善されているのではなく、ROEの高い企業は世間の流れにも敏感であり、コーポレートガバナンスといった企業の収益に直結しないようなことにも人的リソースを割く余裕があるので、そういう企業は女性取締役を起用しているというのが実態かと思います。わずか1、2名の女性役員登用と企業の収益・利益が正の相関関係にあるという無理なこじつけをする報道もたまに見かけますが、論理的な説明はつかないかと思います。
女性役員登用は企業の収益・利益云々の問題ではなく、男女の雇用の均等ということからくる話です。
もっとも、いわゆる大手企業で40代後半~50代前半の役員又は役員候補になる女性は、「未婚」、「既婚であるが子供なし」、「子供がいるが1人っ子」という3層のいずれかに分かれ、この狭い母集団の中から無理やり役員を選んでいることが現実かと思います。しかし、世の中の大勢を占める子供が2名以上いる女性もフルタイムで男性と何ら変わらず働けるという環境整備を行い、働く女性の母集団を大きく広げて、その上で能力のある女性を役員に起用するのが重要と思いますので、正直にこの点を報道すべきであると考えます。