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社内カンパニーと分社化

2017年4月24日付の東芝のプレスリリースによれば、東芝の社内カンパニーであるインフラシステムソリューション社、ストレージ&デバイスソリューション社などを会社分割により分社するということのようです。

 

ここで、今回は、社内カンパニーと分社化の基本について少し説明したいと思います。

社内カンパニーとは、私の記憶ですと平成9年の少し前頃から日本では流行りはじめたように思えます。といいますのも私が最初に勤務していた化学素材メーカーで、この頃にソニーオリンパスの社内カンパニーのケーススタディーを行い、社内カンパニーや持株会社の形態への変更を社内検討していました。

社内カンパニーとは、端的にいいますと擬似会社です。社内カンパニーの話をする時には、事業部制の話と比較すると分かりやすいと思います。

事業部制は多くの会社で採用しており、顧客別、製品別、地域別など切り口は様々ですが事業をいくつかの単位に分けて、各事業部長に一定程度の権限を持たせて損益責任を負わせる制度です。

では、社内カンパニーとはどこが違うのでしょうか。


事業部も社内カンパニーも独立した法人ではないという点では共通しています。大きな違いは、①社内カンパニーはバランスシートまであること、②社内カンパニー長は事業部長より大きな権限と責任を負う点かと思います。

①に関して、は社内カンパニーは擬似会社ですので、1rつの法人と同じように損益計算書だけでなく、カンパニーのバランスシートがあることが多いと思います。つまり、そのカンパニーを1つの会社と同じに考えて、資産・負債・純資産を持つことになります。一方、事業部では事業毎の損益は把握していても、事業毎のバランスシートは作成していないことが多いのではないでしょうか。私の経験では、バランスシートの資産の部に入る受取手形売掛金棚卸資産、有形固定資産、負債の部に入る買掛金などは社内管理の観点から事業部毎に作成・管理していても、それ以外のバランスシートの勘定科目を事業毎に細かく分けている会社は少ないように思われます。

次に②に関しては、これは①と絡むのですが、損益だけでなく、事業の資産・負債まで責任を負う以上、カンパニー長はいわば独立した法人の社長と同じことになりますので、バランスシートに関する権限とともに責任も負うという点ではないでしょうか。つまり、ROA、ROIC(=営業利益÷投資資本(%))、総資産回転率など資産に対する収益との観点の経営責任を負うことになります。ただし、社内カンパニーの運用は企業によって様々ですから一概にこのように言えるわけではありません。

では、次に社内カンパニーが分社化する狙いはどこにあるのでしょうか。

一番大きな点は、事業の売却など再編がしやすくなるという点かと思います。

社内カンパニーは、法的にはあくまでも会社の中の事業部門に過ぎませんので、売却の際には事業譲渡という煩雑な手続きを経る必要があります。一方、分社化して子会社にしておけば、売却の際には株式を売却するという簡単な手続きで足りるのです。そもそも社内カンパニーでなくても、社内の事業部門を切り離して、別法人とする例も沢山見られますが、これらは多くのケースで将来において、売却も選択肢の1つに入れているはずです。

ちなみに、東芝の社内カンパニーの分社化(会社分割)に関するプレスリリースを読みますと、3点ほど書いてありますが、新規事業展開を含めて事業価値最大化に集中する、事業責任を明確化するため直接子会社とすることでガバナンスを強化するなどとあります。

新規事業展開というキーワードに着目すると、新事業に関してアライアンス等を行う際に分社化して、独立した法人としておくことが迅速に出来るということが背景にあるのかも知れません。