中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

書籍紹介 「梟の城」(新潮文庫 / 司馬遼太郎) ー 自分の習熟した職能に生きることを人生の支軸におく

最近、買収防衛策に基づく対抗措置の発動の事例が相次ぎ、この関連記事の掲載が続きましたが、本日は書籍紹介をしたいと思います。

この本は、歴史小説家の司馬遼太郎産経新聞文化部に勤めていた1960年に執筆し、同年に直木賞を受賞した小説です。1990年後半には俳優の中井貴一主演で映画化もされております。司馬遼太郎の小説は私はこれまで一度も読んだことはありませんでしたが、2週間ほど前に書店で小説コーナーで本を眺めていたところ目にとまり、購入した次第です。

内容は、長編の歴史小説で、豊臣秀吉の暗殺を狙う伊賀忍者と、伊賀を捨てて武士として出世しようとする者の生き様を描いた内容で、伊賀忍者の人生感、何を信念に生きるかが書かれており、面白い小説でした。特に興味深かったのは、伊賀の者の生き方としての次の文章でした。

かれら(※隠しの国である伊賀に棲む郷士たち)の多くは、不思議な虚無主義をそなえていた。他国の領主に雇われはしたが、食禄によって抱えられることをしなかった。その雇い主さえ選ばなかった。報酬をくれる者ならいかなる者の側にもつき、仕事が終わると、その敵側にさえついた。(中略) かれらは、権力を侮蔑し、その権力に自分の人生と運命を捧げる武士の忠義を軽蔑した。諸国の武士は、伊賀郷士の無節操を卑しんだが、伊賀の者は、逆に武士たちの精神の浅さを嗤う。伊賀郷士にあっては、おのれの習熟した職能に生きることを、人生とすべての道徳の支軸においていた。おのれの職能に生きることが忠義などとはくらべものにならぬほどに凛冽たる気力を要し、いかに清潔な精神を必要とするものであるかを、かれらは知りつくしていた。

現代におきかえると、専門的な深い知識と習熟した経験をもって業務に当たるプロフェッショナルということだと思います。外資系金融機関の投資銀行部門で勤務する方、戦略コンサルティングファームコンサルタント、弁護士、公認会計士といった職業がイメージしやすいかと思いますが、私はこの文章は、メーカーはじめごくごく一般的な事業会社に勤務するサラリーマンこそが参考にすべき文章と思います。

より具体的には、自分の勤務する会社において常務や専務といった地位には手が届かず、50代半ば~後半で役職定年を迎えることが分かっている40代のサラリーマンが役職定年を迎える今後の10年間における仕事の姿勢の参考指針になると考えます。

残念ながら、自分の現在の出世の度合いから、高い役職の役員の地位は今後得られないことが分かった40代半ば時点でこれまでのサラリーマン人生を振り返り、「社内の人脈は相当あるが、仕事の方は、浅く・広く様々な業務をやってきたな」という方は、社外で通用する、つまり、社外の人がお金を払ってでもその人にアドバイスを求めたいと言えるような「高い専門的な実務能力はない方」といえます。従い、そういう方はおのれの習熟した職能に生きることを、人生とすべての道徳の支軸において」という言葉を念頭におき、役職定年までの期間、1点に集中して専門性を極める姿勢で業務に取り組むことが大事になってくるのだと思います。