コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IRなどに関する実務ニュース

コーポレートガバナンス、M&A、企業価値、IR等の新聞記事について、投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

企業のネットキャッシュが増加

6月9日の日本経済新聞によれば、企業のネットキャッシュが増加しているとのことです。ネットキャッシュとは、純現金で、次のとおり算出されます。

ネットキャッシュ = 現預金+短期保有有価証券-有利子負債

ざっくりといいますと、現預金は、バランスシート(BS)の資産の部又はキャッシュフロー計算書にある「現金及び現金同等物」、「有価証券」であり、有利子負債とはバランスシートの負債の部にある「短期借入金」「長期借入金」「社債」などになり、有価証券報告書の後ろの箇所に借入金等明細表があるので、そこの数値になります。要するに保有する現金(キャッシュ)から借金を引いた数値ということです。

ネットキャッシュが増加するということは現預金が増えたということで、新聞報道によれば、増加したことにより、配当や自社株取得に踏み切る企業が多くなるということです。ちなみに自社株取得とは株主が保有する自社の株式を買取ることで、対価として株主に金銭を支払うことになりますので、配当と考え方は同じです。


この記事に関連して配当の基本的な事項について、少し考えてみたいと思います。

 

配当を行うには、基本的にはバランスシートの純資産にあります繰越利益剰余金がその上限になります。この繰越利益剰余金は、毎期の損益計算書(PL)の当期純利益がここに蓄積されることになります。この繰越利益剰余金のことを内部留保といいます。

では、内部留保が100あったとした場合、これは全て配当できるのでしょうか。

ここで、現預金との関係を考える必要が出てきます。実際に配当として株主に支払われるのは現金になります。従って毎期の利益が蓄積して繰越利剰余金が仮に100となっても、現金が30の場合には100の配当はできません。利益が蓄積して繰越利益剰余金が100となり、一旦現金が100となっても企業が、例えば設備投資をして70で有形固定資産を購入した場合には、現金は30となります(現金勘定が減り減った部が有形固定資産勘定に移ります)。このように「繰越利益剰余金=現金」ではないのです。

内部留保を取り崩して配当を増やせ」という新聞・雑誌記事を見かけ良く理解をしていない方は、「この企業はこんなに内部留保があるのか。これは配当して貰う必要があるな」と考える人もいるかも知れませんが、この話の前提には上の議論があることを理解しておく必要があります。

なお、今回の新聞報道では、純粋に現金が増えたということですので、当然増えた分は、繰越利益剰余金を上限としてその範囲内で配当はできます。ただし、現預金が100、繰越利益剰余金が50となった場合(あまり想定し難いかも知れませんが借入をして現金が増えたような場合でしょうか)には50が配当の限度になります。

以上、財務・経理やIR部門の方にとってはイロハのイのような初歩的な内容ではありますが、数値を扱わない部門の方は理解されていない方も多いと思いますので書いてみました。