中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

機関投資家の株主総会への出席の可能性

先日、株主判明調査について書きましたが、実質株主である国内海外機関投資家は、会社の株主総会に参加できるのかについて書きたいと思います。

株主が会社に対して株主であることを主張するには対抗要件を備えている必要があり、この対抗要件とは、株主名簿の名義上の株主であることが必要になります。従って、実質株主は名義株主ではないため、当然に会社に対して株主であることを主張し、株主総会に出席するこことはできないと思います。

次に議決権の代理行使ができるという観点でも問題になるように思います。つまり通常は、会社の定款において、議決権を代理行使する際には、代理人は株主に限定すると規定しています。これは株主でない者が株主総会に出席することで、株主総会が荒れるのを防止することが趣旨といわれています。

とすると、実質株主は、会社にその地位を対抗できる名義株主ではないので、この定款規定によれば、実質株主は「株主」とまでは言えず、名義株主の代理人として総会で議決権は行使できないということになるようにも思えます(なお、この点は私見ですので、企業法務に精通した弁護士の意見を確認する必要はあります)。

だいぶ以前にJ.フロントリテイリングが、機関投資家などの実質株主が株主総会に出席できるよう定款変更するとの新聞報道がありました。同社は今年の5月に定時株主総会が開催されたようで、同社のホームページで株主総会の招集通知を見ると、代理人による議決権行使に関する定款規定を次のように変更しており、株主総会で議案は承認可決されています。


「第18条 ~前項の規定にかかわらず、取締役会において定める株式取扱規定に定めるところにより、信託銀行等の名義で株式を保有し自己名義で保有していない機関投資家は、株主総会に出席してその議決権を代理行使することができる。」

このように株主名簿上、株主となっていない機関投資家も名義株主の代理人として議決権を行使できると改訂をしています。

では、機関投資家株主総会に出席できるとなると会社側はどうなるでしょうか。

まず株主総会の出席者が増えることになり、さらに株主総会での質問も格段に増えると思います。人数だけ増えるのであれば良いのですが、機関投資家は、金融のプロフェッナルなので質問も会社の本質をつく鋭い質問になります。

素人の個人のオジサン、オバサンのしょうもない質問とは質問の質・鋭さが全く異なります。

会社としては、自社をより深く理解していただくには機関投資家に直接株主総会に来て頂きそこで真摯に対話をすることがより企業価値を高める上では有効であるとは思いますが、一方で、下手をすると機関投資家から突っ込まれて、大きなマイナス影響を受けることもあります。

そういう意味で、J.フロントの判断は、今後の大きな潮流に乗ってはいると思いますが、他社に先駆けての思いきった勇気のある判断であっかと言えると思います。これがきっかけになり、他社でも機関投資家株主総会の参加を許容する会社も増える可能性もあるかも知れません。J.フロントの来年の株主総会ではどういう質問が出るのか大変興味深いところです。