中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

内田洋行に対する株主提案の結果から考える個人株主対策の必要性

投資ファンドのストラテジックキャピタルが内田洋行の本年の株主総会において定款変更等の株主提案を出しており、先日、10月14日(土)に株主総会が開催されました(内田洋行は7月決算)。

内田洋行のホームページを見ますと、会社提案が可決され、株主提案は否決されたという結果に終わったようです。株主総会の議決権行使結果は、臨時報告書で報告することが必要になりますが、本日時点では、臨時報告書は開示されておらず、ストラテジックキャピタルの提案の賛否比率の詳細などは分からないところではあります。

しかし、内田洋行の株主構成と株主提案が否決されたという結果から、個人株主対策の重要性について思うところを少し述べてみたいと思います。

まずは、2017年7月末の内田洋行有価証券報告書で主な株主構成を見ると次のようになっています。

金融機関:36%、個人その他:31%、外国法人等:19%、その他法人:13%

投資ファンドの株主提案が企業価値向上に資すると考えて賛成に回る株主は通常誰かというと、一般的に言って、外国人株主と国内機関投資家が考えられます。

有価証券報告書では、金融機関の比率は36%とあるだけで、この中に国内機関投資分がどの程度あるのかは不明ですが、仮に36%全てが国内機関投資家であると仮定して話を進めます(大株主状況を見ると、りそな銀行三井住友信託銀行があり、この2社だけで6%ほどになるので、36%全てが国内機関投資家ということはありえませんが、話の便宜上そう考えます)。

今回、ストラテジックキャピタルが提案した定款変更の議案(政策保有株式の売却規定の新設)は、会社法上の特別決議事項に該当するため、3分2以上の賛成、つまり67%の賛成が必要になります。とすると、外国人株主と国内機関投資家分だけを合算すると、55%のため10%程度足りないことになります。

従い、ストラテジックキャピタルは個人株主の31%のうち、10%を自社の味方につけることができるかがポイントになります。なお、繰り返しになりますが、「金融機関36%=国内機関投資家」との前提を置いた仮定での話になります。

今回の定款変更の株主提案は、政策保有株式の売却を定款規定に盛込むという内容で、最終的には配当増に繋がる内容であり、それだけを見ると個人株主には都合のよい話になりますので、個人株主は賛同する方向に向かうように思います。

では、これに対して会社は何をすべきでしょうか?

会社としては、長期的な観点から株を持つことが株主の大きなリターンにつながることを説明する必要があります。さらにブレークダウンして、具体的に何をすればよいかという点になると、日々株主に自社の魅力を伝え、ファンになって貰うことが重要になります。そのためには、株主優待を実施する、定期的な個人株主を対象とする事業所の見学会を開催するといったことが重要になるように最近思っております。

株主優待は、自社製品を配布することも多いですが、私の感覚ですと、金額は3,000円
~5,000円相当が多いように思えますが、額が小さいからと馬鹿に出来るものでははないと思います。

個人株主は、「個人」ですので、会社から定期的に商品を貰うということは非常に嬉しいものです。実際に株主優待を開始して個人株主数が大きく増えたという話や、逆に、株主優待を廃止したところ個人株主が大きく減ったということは良く耳にします。

機関投資家は、アセットオーナーから預かった資金を運用するプロであり、投資に対するリターンにのみ関心があり、優待などは関心は全くありません。しかし、個人は、そ少額の自己資金で少ない株式を保有するのであって、安定配当が関心事ではありますが、株主優待として投資先企業の製品を貰えるということは、結構重視しているように思います。

株主見学会も同じです。自分の投資先企業が、個人である自分を事業所に招いてくれて、投資先が大手企業であれば、普段会うことのない企業の経営層が丁寧に会社の概況を説明し、案内してくれるということは、お金に代えがたいものと受け取るのではないでしょうか。

アクティビスト株主(物言う株主)対策としては、安定株主増ということがありますが、その観点から個人株主対策に力を入れるということを会社はあらためて考える必要があるのかも知れません。

勿論、個人といってもプロ並みの資金で自己運用している方もいますが、そのような方は個人全体で見るとごくわずかであり、個人株主の圧倒的多数は、一握りの富裕層ではなく、数十万円から数百万円を投資する少額投資の個人です。そうであれば、こういう一般の方にどういう対応をすれば、長期で株式を保有してくれるのかを企業はあらためて真剣に考える必要があるように最近感じています。

内田洋行株主総会の議決権行使結果は、暫くすると臨時報告書が開示されますので、それが分かり次第、またブログで書いてみたいと思います。