中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

平時導入型の買収防衛策の廃止が相次いでいますね ー 王子ホールディングスも廃止

物言う株主からの株主提案が今年はかなり多い印象を受けます。株主提案の土台にあるのは、コーポレートガバナンス・コードを始めとしたコーポレートガバナンス改革です。20年以上前に村上ファンドが登場した際には、世間から非難を受け、オールジャパンで排除する動きだったかと思います。安定株主、機関投資家もがっちりとタッグを組んで。それから20年以上が経過し、当時、村上ファンドが主張していたことが受け入れられつつある時代になってきました。この20年で世の中は大きく変化したものだと最近の株主提案、この提案に対する議案賛成率の高まりを見るとつくづく感じます。10年後には株主提案が普通に可決される時代が来るかも知れません。私としては、個人投資家機関投資家と同様にコーポレートガバナンスの観点から企業に提案をしたり、意見を提示することのサポート、アドバイザーなどを副業として早く始めたいと思う次第です。

さて、前置きが長くなりましたが、最近、平時導入型の買収防衛策を廃止する企業が相次いでいますね。5月12日には、王子ホールディングスが廃止を公表しているほか、5月23日には岩谷産業が廃止を公表しています。

https://investor.ojiholdings.co.jp/ja/ir/news/auto_20230512569056/pdfFile.pdf

https://www.iwatani.co.jp/jpn/ir/news/files/2023/20230523_oshirase.pdf

この中で興味深いのは王子ホールディングスのプレスリリースの表現です。プレスリリースの該当箇所を抜粋します。

当社グループは、紙パルプ製造業をはじめ、植林事業や発電事業など幅広く事業を展開し、「革新的価値の創造」、「未来と世界への貢献」、「環境・社会との共生」を経営理念とし、「領域をこえ 未来へ」向かって、中長期的な企業価値向上に取り組むとともに、持続可能な社会への貢献を果たしていく責務があると考えております。そのような中、民間企業で国内最大の森林保有者として、また数少ない民間の森林管理事業者として、環境経営の推進を掲げて持続可能な森林経営を行っており、森林が持つ洪水緩和等の水源涵養機能の維持および水源地の確保などについて、国土を保全する重要な役割を担い、環境と調和した企業活動を展開し、中長期的な森林の公益的価値の維持向上を図る責務があると考えております。これらの社会的責務は、一朝一夕には果たせるものではなく、安定的な経営基盤の構築により果たせるものであり、その社会的責務の重要性は本対応方針の導入時と変わるものではありません。近時においても、当社グループの企業価値を毀損するおそれのある大量買付行為が行われるリスクは依然として存在しており、当社取締役会としては、この責務に対するリスクには十分な備えは必要であり、そのような大量買付行為が行われる際には、株主の皆様が必要とする適切な情報を提供する責任があると考えております。 

買収防衛策を廃止する企業は、コーポレートガバナンスの最近の動向や世の中の環境変化を踏まえて廃止したという表現を使う企業がほとんどです。けど、王子ホールディングスはかなり力を入れて作文をしています。

有事の際には買収防衛策を導入することで守るべき利益を投資家にアピールしたいということなのだと思います。例えば、中国の投資ファンドが買収をして、王子ホールディングを自分たちの意のままに運営することになると、公益を害することになり、この場合には有事型の買収防衛策を発動するといったことなのかなと思います。廃止を公表する多くの企業のプレスリリースを見るとボイラープレートのような開示で終始している企業もあれば、一方、しっかりと練られた独自性の高い開示をする企業もあり、こうところを見ても会社の意識があらわれますね。