中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

平時型の買収防衛策への指摘が結構厳しいですね。今後、上場企業にとって重要なことは・・ ー 買収に関する経産省の指針原案より

本日は「公正な買収の在り方の研究会」の指針案に目を通しました。今後も複数回の議論がなされるようなので、今後、細かい箇所は修正が入るのかも知れませんが、平時導入型の買収防衛策についても厳しい指摘が目立ちますね。関連すると思われる箇所を指針からいくつか拾ってみたいと思います(以下、太字は私が強調のため付記)。

とりわけ、買収への対応方針は、制度的な枠組みとは異なり、会社の発意で選択的に(同意なき買収においてのみ)用いられ、その設計主体が会社であるという特徴がある。このため、構造的に、経営を改善する余地が大きく買収の経済的意義が発揮されやすい企業において用いられやすく、かつ、買収を成立させない方向での設計・運用がなされやすい、という性質が内在している。買収への対応方針について株主意思の確認や時間・情報・交渉機会の確保を目的とする場合でも、会社の姿勢次第では、当事者にとって中立な手続ルールとして機能しないおそれがあることには留意すべきである。 

買収防衛策全体に関する記載ですが、厳しいですな。

我が国においてはこれまで、業績が低迷するなど経営を改善する余地が大きく、買収の経済的意義が発揮されやすい企業において対応方針が導入されやすい傾向があったことは、看過すべきではない。このような会社において買収への対応方針が導入されれば、望ましい買収提案の躊躇や、買収を通じた規律付けの低下、買収提案に対する経営陣の真摯な検討の阻害を生む結果となる可能性も否定できない。したがって、会社としては、対応方針の導入を検討する前に、平時から会社の本源的価値を高めるための合理的な努力を貫徹するとともに、それが時価総額に反映されるよう取り組むことが、まずは前提として求められる

これまで平時型の買収防衛策を有していた企業は問題のある企業も多く、買収防衛策に頼るのではなく、株価向上に取り組めということです。これも厳しい内容です。

対象会社は、対応方針の導入が一つの経営戦略として必要だと考える場合にはその理由について丁寧に対話や情報開示を行うとともに、取締役会の構成の独立性を高めていく(例えば社外取締役の比率を過半数とする)ことで公正さを担保すべきである。そのような場合に対応方針が買収に関する透明性を高めるのであれば、機関投資家議決権行使助言会社は、基準をもって形式的に判断するのではなく、対象会社の状況や当該会社との対話の内容、対応方針の内容等を踏まえた上で、議案に対する賛否を判断することが望ましい(有事において対応方針が用いられる場合でも同様である。)。このような対話や情報開示をするに際して、対象会社と機関投資家の目線合わせをするために、あり得る一定の方策について例示をするとすれば、以下のとおりである : ①対抗措置の発動時に必ず株主総会に諮る設計とすること ②発動要件を限定した設計とすること ③特殊な状況下の時限的な措置として設計するこ

③が厳しいですね。③について脚注では、「例えば、金融危機等により市場全体の株価が一時的に急落しているような場合に、例外的な措置として、時限的に導入するタイプの防衛策(例えば有効期限を短期間に設定し、市場の危機が終息した場合には廃止される等)として設計することなどが想定される」と書かれています。要するに毎年更新するような設計の買収防衛策は好ましくないということです。機関投資家と会話をすると数年前からこんな指摘をいくつかの投資家はしていました。

「事前の開示」について、最後のページに次の記述があります。

対応方針を平時に導入し、開示することによって、一定以上の株式を取得する場合には対抗措置が用いられ得ることについて、買収者、株主等の事前の予見可能性が相対的に高まると考えられ、対抗策の内容を見て投資の意思決定を慎重に行う、買収の手法を工夫して買収を試みるなどの対応が可能となりうる。この場合、買収者が一定以上(トリガー基準)を越えて市場で買付ける行為に歯止めをかけることができる側面がある。また、損害の予見可能性は、対抗措置の相当性を基礎づける要素として考慮されうる。これらの効果に期待して、実務上、株主総会決議を経た上で、平時において対応方針を導入・継続する会社がある。他方で、事前に開示されていることで、導入企業は(望ましい買収も含めて)潜在的な買収先候補から除外されている可能性があり、経営への外部規律効果が期待できない可能性もある。また、「対抗措置が用いられ得ること」が予見可能なだけでは、対抗措置の発動を回避できる可能性がもたらされるとは限らず、加えて「どのような場合に対抗措置が用いられるか」についての予見可能性が高いことも重要であると考えられる。 

今回の指針案では、基本的に買収防衛策は有事型として、かつ導入及び発動に当たっては株主の意思を確認せよということを言っているのだと思います。この指針案によれば今後は平時導入型の買収防衛策を導入する上場企業は、大きく減少するような気がします。平時型がなくなることで敵対的買収のリスクが高まり、有事型で株主の賛同を得られるか極めて不安定な状態になるということです。

ということで企業はどうすれば良いかというと、中長期での企業価値の向上の姿勢を投資家に説明して、平時の時から理解して貰うSR活動がこれまで以上に重要になると思います。