中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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経産省「公正な買収の在り方に関する研究会」(第1回)の議事要旨が公表 ー 各委員の意見は参考になります

本日は研究会の第2回会議が開催されましたね。1回会議(11月18日)の会議議事録が経産省のホームページに次のとおり公表されていますが、本日は、議事要旨をしっかりと読み込みました。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kosei_baishu/pdf/001_gijiyoshi.pdf

各委員の意見が色々と書かれており、なるほどと思うところがあり、勉強になりました。議事要旨に記載されている中からいくつか参考になる意見を切り出して紹介したいと思います。意見を述べた方の氏名は記載しませんが、議事要旨の該当ページ番号を付けておりますので、詳細は議事要旨本文をご覧頂ければと思います。

(P10)まず、買収者側は十分な情報開示が必要であろう~(※途中省略します)~買収者側が企業価値向上策を示した場合には、対象会社側においては、買収者側の企業価値向上策と十分な比較可能性を有する具体的な企業価値向上策を提示することが強く期待されるのではないか。加えて、自らの本源的価値を可能な限り定量的に株主・投資家に対して提示することが強く期待される 

そのとおりですね。買収者は自分なら企業価値を高めることが出来ると思い買収をするのですから、買収提案を受けた対象会社としては、自社の理論上の企業価値を株主に説明して、自前でも中長期で企業価値向上が出来ることを時間軸を決めて、株主の賛同を求めることが必要になりますね。 

(P12)買収防衛指針について、平時導入型買収防衛策の発動に関わる事項や有事に買収防衛策を導入するための要件や、有事導入型買収防衛策の発動に関わる話はスコープ外となっていた。今回の研究会で、これらを検討することは必要~(※途中省略します)~買収防衛指針を策定した2005 年当時は、日本は政府をあげて買収防衛策に賛成しているのかとマーケットから見られたこともあったので、当該指針の新たなバージョンという打出しではなくて、公正な買収の在り方という広い概念を用いて整理するほうがよいと思っている

2005年当時は安定株主がいるのが常識の時代でした。政策保有株式が悪いなどという国内の機関投資家もいなかったと思います。これに違和感を覚えていたのが海外機関投資家です。そのような環境下で策定されたのが、買収防衛指針ですので、そもそも今の時代にそぐわないのかも知れませんね

(P15)会社の支配権争いの方向性について、基本的には株主が判断するべきであるが、企業が果たしてきた社会的及び経済的責任を買収提案者が負えるかどうか確認する機会や制度が必要と考えている。買収防衛策の適法性や合理性にばかり焦点を当てるのではなく、買収提案者の行為規範を見直すとともに、たとえば、ドイツやイギリスなどの制度なども参考に、買収提案者に対する情報提供請求権を会社に付与することなども検討すべきではないか

(P19)平時導入型買収防衛策が本当に必要だと考えているが、議案が否決されてしまうという消極的な理由で廃止している企業もいる。買収防衛策が保身目的だと主張する投資家の意見も理解できるが、マイナス面ばかりに注目されて杓子定規に判断をされているようにも思われる。企業側にも工夫が必要であるが、買収防衛策のプラスの側面にも焦点が当たるべきではないか~(※途中省略します)~ 平時導入型買収防衛策を入れることが買収提案対応の予見可能性を高めて買収提案が真摯に検討されることにも資するのではないか

 個人的にはとても納得できます。機関投資家はマイナス面だけを強調して一律反対というのがほとんどです。背景にはアセットオーナーから「廃止せよ」と言われているからです。でも、アセットオーナーが求めるからというだけで反対してよいのでしょうかね。機関投資家はプロのアセットマネジャーであり、企業の実態を踏まえて柔軟に議決権行使をすべきです。

昨今、株主至上主義からステークホルダーキャピタリズムへのシフトといった議論がアメリカでも生じている。社会課題の解決と企業の存続意義とを企業価値の向上の観点から整合的に考える立場も踏まえ、今回ガイドラインを策定する際には、そのような背景事情や議論の推移も整理してアップデートした上で、今企業が公正な買収の在り方についてどのように考え、どのように振る舞うべきかがわかるようなものになれば良いと思う。

ステークホルダー資本主義の時代ですので、株主のことだけでなく、企業は他のステークホルダーのことを考える必要があります。従って、他のステークホルダーの利益を毀損しないか否かという観点から敵対的買収の妥当性であったり、その対抗手段である買収防衛策の是非を考えるべきと思います。

今回の委員の中には、これまで私が仕事でお会いした方も複数おり、参考になる意見も結構ありましたが、特に気付いた点を参考までに紹介させて頂きました。西村あさひ法律事務所の太田氏の意見なども非常に分かり易いです。各委員の意見は有用ですので、議事要旨と事務局資料はじっくりと読まれることをお薦めします。