中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

アニュアルレポート、統合報告書は誰のため?

本日は夜10時からサッカーワールドカップの日本対ドイツですね。私はサッカー、野球はじめスポーツ全般の観戦の習慣は子供の頃から元々なかったのですが、子供がサッカーを始めて以降、日本のサッカーやラグビーの試合観戦が楽しみで、本日は夜ビールを飲みながら家族でテレビ観戦の予定です(これから車でコンビニにビールとおつまみを買いに行く予定です)。

本題に入りますが、11月18日の新聞報道で日本IR協議会がIR優良企業13社を公表したとの記事がありました。大賞がアサヒホールディングス、NTT、優良企業賞は味の素、荏原、日立製作所富士電機などのようです。

私はこの賞のことはあまり詳しくはないので、表彰の基準は分かりませんが、想像するに統合報告書はじめIR関連資料の分かりやすい開示が評価されたのだと思います。私も統合報告書の作成の関係で、これら企業の統合報告書は前から時々見ていますが、大変分かりやすく記載されており、参考になる構成や記述も多く、機関投資家から見ても高い評価なのだろうと想像します。

統合報告やIR活動の関する表彰については、これ以外にどういうものがあるのか私は知りませんが、こういった賞をとりたいと考える企業のIR部門は多いのだろうと思います。IR部門は仕事の成果の貢献が非常に見えずらい部署です。企業業績が悪かったり、業界の今後の見通しが悪いといくらIR活動を頑張ってみたところで、株価はなかなか上がらないし、また、IR部門の担当者は優秀でも、投資家とのミーティングで説明する経営トップやIR担当役員のプレゼン能力が低いとアナリストが判断すると、IR担当が頑張ってもこれまた株価は上がりません。

ちなみに、この経営トップやIR担当役員のプレゼン能力は極めて大事です。プレゼン能力が低いと「この会社に投資して大丈夫か?」と投資家は思ってしまいます。「プレゼン能力が高い=単なるおしゃべりが上手い」というのではなく、口頭での説明ににじみ出る自信です。企業業績が悪かったり、業界の先行きが不透明な企業ほど、経営トップなどのプレゼン能力が株価を左右するのだと、投資先企業の決算説明会の動画を見るたびに私は感じます(業績がよければプレゼン能力の重要性は当然下がります)。

 少々脱線しましたが、ということで、IR部門の方が賞をとりたいという気持ちは私はよく分かります。けど、ここで良く考えなければならないことがあります。それは、賞をとることと、自社の株主・機関投資家が求めることのベクトルがあっているかです。これはかなり大事です(ところで、企業には様々なステークホルダーが存在しますが、統合報告書は取引先、社内の従業員が読むことは少なく、また、就職活動中の学生もさっと眺める程度だと思います。隅々まで読むのは機関投資家です。つまり機関投資家のための資料と言ってよいです)。 

表彰にばかり目が行き、細かい数値を沢山開示する企業も最近増えていると言われていますが、その数値の意味が不明な企業も結構目にします。「この企業がこの数値を公表する意味は何?」という疑問です。他社の開示例やコンサルタントのアドバイスから「当社も沢山、非財務情報を開示せねば」と考えているのだと思います。

けど、単なる数値の羅列ではなく、数値の裏にあるストーリーが肝であり、そこを知りたいというのが投資家です。投資家がどこまで定性情報(短期の業績数値以外の情報)を理解できるのかという問題もありますが(長期投資の能力のある投資家は少ないのも現実)、このストーリーを骨太にして、それを裏付ける数値を必要な範囲で掲載するというのが肝になるのだと思います。このスト—リーは業界や個社によって大きな差異があるので、何が正しいのかの決まりはありません。賞をとることを目指すのはIR部門の担当者の励みになるので大事だとは思いますが、その前にまずは自社の株主・機関投資家が望む情報が開示出来ているかをしっかりと考えるべきと思います。