中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

事前警告型の買収防衛策を廃止する際のポイント(その1)

明日月曜日は久しぶりの在宅勤務です。この週末には、CGSガイドラインや伊藤レポートを結局、じっくり読むことができませんでしたので、明日は、これらガイドラインの精読などのインプットに時間を費やす予定です。これに加え人の目がないので、思う存分に株式投資銘柄の情報収集をする予定でもあります。

先週は仕事上の必要があり、国内の主要機関投資家20社程度の議決権行使基準を整理しました。事前警告型の買収防衛策の行使基準は、昨年、一昨年から変わりなく厳しいですね。社外取締役過半数いない企業や過半数いても業績が低迷していてROEが低い企業(かつ機関投資家の株式保有比率の高い企業)は、新規導入や更新での株主の過半数の賛同を得るのは正直なところかなり厳しいところかと思います。

従い、やむなく事前警告型の廃止を検討するという企業も多いかと思います。こういう企業は廃止に当たって何を検討すべきかを複数回にわたり記事を書きたいと思います。

まず、直ぐに思いつくのは有事導入型ですよね。事前警告型を廃止する企業の中には、「今の時代は有事導入型が認められているので安心」と考える企業も結構多いと想像します。廃止の際の東証へのプレスリリースには、次のような文言を掲載することになります。

当社の企業価値向上および株主共同の利益の確保・向上に取り組むとともに、当社株式の大量取得行為が行われる場合には、大量買付を行う者に対し、株主の皆様がその是非を適切に判断するために必要かつ十分な時間と情報の提供を求め、独立性を有する社外役員の意見を尊重した上で、金融商品取引法会社法その他関係法令の許容する範囲内において、その時々において適宜適切な措置を講じてまいります。

これは廃止する企業のほとんどが「お作法」として記載しています。5年以上前の廃止企業のプレスではこのような記載はまず見かけませんでしたが、3年ほど前から廃止企業のほとんどがこの文言を記載しています。理由はシンプルで買収防衛策は事前開示が重要ですので、有事型を採用する余地があることを予め開示するのです。

この有事型で一番大事なのは、本当に有事導入型のスキームを十分に社内検討した上で廃止していますかという点です。最近の事例を見て「有事の時には大手法律事務所を起用して有事型を導入すればよいから、今の時点では深く考える必要はない。まあ、事前警告型と同じような内容で足るだろう」という安易に考えている企業も多いのではないでしょうか? 

しかし、この考えは要注意です。有事型の場合には、株主総会の後日の賛同が必須になりますが、大量買付者が出現してから総会基準日の設定までには時間がかかり、この間に株式保有比率が高まるリスクがあります。安易に事前型と同じスキームと考えることはリスクがあると思います。有事導入型のスキームについて事前警告型との違い等を具体的に社内で検討しておくことが大事です。

廃止にあたっては、社外取締役から細かい質問が出ることも想定しておいた方がよいと思います。社外取といっても能力・資質に大きな開きがあるので(大手総合商社の社外取と株式時価総額1000億円程度の企業の社外取では能力に大きな開きがあるのは当然です)、質の低い社外取は何の問題意識がないかも知れませんが、買収対応戦略は、取締役会の重要な検討事項でもあるので、通常は社外取の関心も高いと思います。

有事導入型と事前警告型の詳細検討は、最近の旬刊商事法務に記事が掲載されているので熟読をおすすめします。では他に事前型を廃止するに当たって企業が検討すべき事項は何かありますでしょうか? 有事型の発動を視野に入れて、検討すべき重要な事項があると私は考えていますが、これは次回紹介します。