中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

東証1部上場企業がスタンダード市場を選択する理由 ー クックパッドの開示文より

東証1部の2100社の8割近くがスタンダード市場を選択する予定ということで批判されていますが、そもそも簡単にプライムに上場できるなら、中小型銘柄はプライムを選択するのは当然かなと思います。非常に分かりやすい例でいうと「東大に簡単に入れるよ。今、その学力がなくても、今後、東大生と同じ能力を付ける意欲さえあればOKです」と言われたら、そのような学力がない高校生でも東大を選択しようと思うのと同じです。

そんなことを批判するよりも、東証1部上場企業が簡単にプライム市場に移行できる制度設計にした金融庁とその下請会社のような東証が厳格な基準を制定しなかった責任の方が大きいかと思います。勿論、安易にプライム市場を選択した中小型銘柄(株式時価総額1000億円以下)の経営トップの企業統治の理解度も問題ですが。

そのような中、東証1部でありながらスタンダンード市場を選択する企業も少なからずあります。本日、買収防衛策の件で記事を書いたクックパッドはスタンダード市場を選択していますが、プレスリリースには選択の理由として次の記載があります。

  1.  2021年6月 30 日の移行基準日においては、「プライム市場」の上場維持基準を充足したものの、流通株式時価総額に関する基準については、当社の取り組みだけでは実現できない要素も多く、仮に「プライム市場」を選択した場合、将来的に当該基準を充足せず、上場維持基準に抵触するリスクがあることを考慮すると、「スタンダード市場」を選択し、株主の皆様が不安を持つことなくより安心して当社株式を保有売買できる環境を確保することが重要と判断しました。
  2.  当社グループは現在、2017年からの 10 年間を長期的な企業価値向上のための投資期間と定めており、将来の成長のために、限られた経営資源と資金を各種サービスの開発・拡大等のために集中的に投下しています。「プライム市場」を選択した場合に求められる基準の中には、更なるコストや労力を要するものがあり、上記のような現在の当社の状況に鑑みると、「スタンダード市場」を選択し、限られた経営資源資金を引き続き各種サービスの開発・拡大等に配分することが、当社グループの長期的な企業価値向上により資すると判断しました。
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市場区分の1次審査においてプライム市場区分を充足している中、あえてスタンダードを選択したようです。掲載されている2つの理由ですが、もっともだと思います。プライムを選択するとコストがかかるのです。そんなことにコストをかけるより、別のことにリソースを割く方が中長期的な企業価値向上に資するというのは立派な経営判断かと思います。

今回、プライムに入るべきではないにも関わらず、プライム市場を選択した株式時価総額1000億円以下の多くの中小型銘柄はプライムに限定して求められるコーポレートガバナンス・コードの基準を充足していく必要があります。ここを理解しないまま安易にプライム市場を選択した企業は、将来、アクティビストから狙われるリスクも出てくるかも知れません。