コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

なんでも開示に落とし穴 ー 開示を補うのが投資家との対話です

新型コロナウイルスが市場を大きく動かす要因となっていますが、第6波の可能性も現実化するのでしょうか。日経平均株価は先日大きく下げましたが、コロナでの急落は「買い相場」ですので、明日は前から売却を検討していた銘柄を売却して十分な資金を作り、コロナでの今後の更なる下げの局面での特定銘柄への投資に備える予定です。

さて、11月17日の日経新聞の大機小機に「なんでも開示に落とし穴」という次の記事が掲載されていました。

なんでも開示に落とし穴: 日本経済新聞

内容としては、TCFDはじめ企業の開示要請が一段と高まり、何でも開示すべきの風潮になっているが、「それでよいのか?」ということです。悩ましい点として2つあげているので抜粋すると次のとおりです。

まず企業の負担増大だ。CGコードへの対応で、企業はヒト、モノ、おカネと膨大な投資を強いられている。関連部署の激務はすさまじい。働き方改革と真逆の世界を生きている。取締役のスキルといっても具体的に何をどこまで開示するかは一筋縄ではいかない。気候変動についてサプライチェーン(供給網)の淵源を開示しろといわれても、現実には不可能に近い。不要不急の作業にまでコストをかけることになりかねない。

より深刻な点は、膨大で詳細な開示を読みこなせる投資家がどれほどいるか、である。とくに一般投資家は古代宗教の経典かと見まがう分厚い開示資料などパスするのが普通だろう。なんでも開示すればよいという思いが「寄らしむべし、知らしむべからず」の結果を招いていないか

この記事を読んで、企業で実務を行う私としてはまさにその通りと思いました。気候変動の対応などがそうですが、開示には限界もあり、またそもそも「そこまで必要か?」という疑問を感じます。気候変動の財務インパクトを開示せよというのも最近の動きですが、現実にはかなり難易度が高いです。一定の仮定の下で、かつ一定のレンジで財務インパクトを開示するのは可能かも知れませんが、数字というのは開示すると独り歩きするのが常です。となると数値の開示には躊躇するのが企業実務です。ということをはじめ、最近のESG開示の動きを見ると、企業がその対応に割かれる時間・金は膨大なものになっており、本業の金儲けへのリソースが十分に割けないというケースも出てくるかも知れません。

本来、CSR部門などは企業の収益を生まない傍流の部門なのですが、最近のESG開示の機会を「今こそが自分たちの活躍できるタイミングだ」と勘違いして、無駄に頑張り過ぎてCSR関連のコストが増大している企業も多いのではないでしょうか。傍流にいる「CSRおじさん・おばさん」が必要以上に張り切り過ぎている企業です。そういう無駄なことにも十分なリソースを割ける企業がプライム市場に残るべきということであるのかも知れませんが。

いずれにせよ、開示できる事項と出来ない事項があるのは事実です。では開示できない事項はどうすべきかというと、それが投資家との対話で話をすべき事項になります。投資家、特に機関投資家との対話が必ずしも十分に出来ていないという上場企業も多いと思います。この対話というのは、決算発表の際のアナリストとの対話ではなく、企業の中長期の課題やESG経営などの非財務情報についての対話をいいます。このような対話を行うことが株主資本コストを下げることにつながり、また、書面で開示していない事項についてステークホルダーの理解を深めることになるのだと思います。12月末がコーポレートガバナンス報告書の提出期限ですが、年明けより対話を開始するのがタイミングとしては良いかと思います。