「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」というものが8月に立ち上がりました。この検討会は、6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードを踏まえ、企業による知財投資・活用戦略の開示や社内におけるガバナンス構築を促すためには、企業がどのような形で知財投資・活用戦略の開示やガバナンスの構築に取り組めば、投資家や金融機関から適切に評価されるかについて、分かりやすく示すことなどを目的としています。
第1回の会合が8月6日に開催され、事務局説明資料は次のとおりです。
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/tousi_kentokai/dai1/siryou4.pdf
この中で、機関投資家のESG投資において知財情報を活用する動きとして、次の記述があります。
- 投資先企業の環境関連技術に関する特許データに基づき、気候変動によって生じるコスト・ 利益の現在価値を算出し、気候変動によって企業価値が将来的にどの程度変化するかを分析
- 各セクターにおける当該企業の特許の占有率にそのセクターにおけるグリーンレベニューの額及び利益率を掛けることで、当該企業が気候変動で得られるか可能性がある機会を将来にわたっての利益額として示した
- 運用会社のアナリストが理解できるくらいの特許情報を企業が開示することが重要。投資家にとっては、特許情報を使わなければならないという切実な状況があり、ニーズはある
- 英国拠点では、投資運用額の半分程度をいわゆる「ESG投資」に振り向けているのが特徴。そのESG投資で重視しているのが知的財産の情報
- 知財情報は、企業(が出願し、獲得した知財)のありのままの姿を現している。ESG投資に欠かせないデータとして数年前から利用を始めている。企業が現在、そして将来、どんな方向に向かおうとしているのかを示し、どんな研究開発に力を入れようとしているのかを知ることができる。ESG投資に欠かせないデータとして数年前から利用を始めている
- 知財を分析すれば、その会社が各事業のどんな分野で強みをもつか、判断することができる
私の実務経験上、特許情報だけ見ても、その企業の企業価値を判断することは出来ません。特許情報は公開されるので、公開されると他社の模倣の対象となります。当然全く同じ模倣は特許侵害になるので、侵害を回避するような形での模倣となりますが。
このため、企業によっては、本当の肝になる技術情報は、公開せずにノウハウとしてブラックボックス化することも多いです。従って、公知の特許情報のみで企業の優位性は判断できません。従って、株式投資の側面から特許情報を見るというのは、その企業の大きな研究開発の方向性を知るといった観点での活用になるのだと思います。ただ、特許情報は記載内容を含めて極めて専門的で、技術のバックグランドのない投資家には理解できません。書いてある文字は読めても内容はチンプンカンというところだと思います。従い、それを分析する業者を活用するのが必要かとは思います。
2021年内に「知的財産投資・活用戦略に関する開示ガイドライン(仮称)」の取りまとめを予定しており、本年秋頃までに方向性を示す予定のようです。