前回、取締役のスキルマトリックスについて、真剣に悩み時間をかける必要は全くないことを紹介いたしましたが、今回、その理由について説明します。
スキルマトリックスは取締役会のメンバーのスキルを一覧化したものですが、これが使用される局面は、株主総会での取締役選任議案です。つまり、機関投資家がこれを見て、議案の賛否を判断するのですが、個別取締役のスキルを見て「反対」するかというとまず考えにくいです。
何故ならば、機関投資家の議決権行使基準には、個々人のスキルを理由に反対するなどとは通常は規定されていないからです。また、取締役候補者のスキルのバランスを理由に経営トップが反対されるということもまずありません(もっとも極端に特定のスキルしかない候補者しかいない場合には、経営トップに反対ということもあるかも知れませんが、こんなケースは極めて例外かと思います)。
であれば、会社としてはスキルマトリックスをどうすべきかですが、結論は簡単で、時間をかけずに作成すれば良いのです。その会社の業種に通常必要とされる無難なスキルを列挙して、各取締役毎にバランス良くスキルに「〇」を付けておけばよいのです。もし何か強くアピールしたいスキルがあれば(「先見性」「突破力」等)、1つほどそういうものを記載しておいても良いかも知れません。「この会社面白いぞ」と機関投資家の関心をひくことが出来るかも知れません。
自分のスキルに「〇」を付けると、その方自身がその業務の専門性がどこまであるか不安と思う方もいるとは思います。財務のスキルに「〇」はついているが、「俺は財務経験が短いので、実は専門性には相当不安がある」といったケースです。しかし、そんな心配などする必要はゼロです。その人のスキルが本当にあるかどうかなど、根掘り葉掘り聞いてくるほど機関投資家は暇ではないです。さすがに財務業務にかすったこともないのに、財務スキル「〇」みたいな嘘を記載するのはあまり宜しくはないとは思いますが、けど、仮にそうしても誰もたいして気に留めないとは思います。
会社としては、どういうスキルを列挙すべきか、また、この人に「〇」を付けてよいかどうかなど細かいことを悩んでも、投資家はそこまで見ていないです。そんなことに悩むのは全くの時間の無駄です。スキルなどは時間をかけずに他社例を見て、無難なものを書いておければ足りると考えます。いかに高いスキルを並べ立てても、結局、業績がいまいちということになると「こいつらは何のスキルがあるんだ」ということで投資家の怒り倍増ということになります。