中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

経営トップはステークホルダー資本主義を万能な「言い訳」にしてはいけません

最近、ステークホルダー資本主義なる言葉が色々なところで言われています。米国のビジネスラウンドテーブルで取り上げられてから、日本でも言われはじめているところかと思います。昔は株主資本主義でしたが、今は、ステークホルダー資本主義です。

さて、この言葉ですが、ESGへの高まりとともに最近流行っていますが、必ずしも市場関係者に完全に受け入れられているものではないと思います。ウォーレンバフェトなどは、ESGに係るコストは株主に負担させるべきでないと明確に言っています。まったくもってその通りだと思います。

ESG課題への対応は企業に大きなコストを負担させるリスクがあり、これを正当化するためステークホルダー資本主義をキーワードに持ち出す企業もあると思いますが、これは間違った考えと言えます。あくまで株主の利益を最優先させるのが、上場企業です。それは上場企業の意義を考えると良く分かります。

リスクマネーを資本市場から調達できるのが上場の意義です。そして、リスクマネーを供給する株主は、投資先企業が破綻し、株券が紙切れになっても会社に投資金額を返却せよとは言えません。会社法上、株式会社は株主が投下した資本を返還する義務はないのです。だからこそ、株主はリターンを求めているのです。

つまり、紙切れになるリスクがありながら投資をするのは、リスク以上のリターンを求めるからです。そして、このリターンというのは、投資期間が短期・中長期のいずれであっても、TSR(株式総利回り)です。つまり、配当と株価の値上がりが期待できるから株主はリスクマネーを上場企業に提供するのであり、上場企業は存在しうるのです。

これを忘れ、株主以外のステークホルダーもいるのだから、株主を優先する必要はない、つまり配当は減らしても、ESG課題に取り組むことは許されると勘違いしている経営者がいたら、それは考えをあらためる必要があります。配当を減らしてもESG課題に積極的に取り組むというのは違います。もし、配当を減らすのであれば、株価の値上がり率を上げてTSRに変化が生じないよう企業は取り組む必要があります。

少し前の旬刊商事法務にシンガポール投資ファンドのエフィシモキャピタル(東芝の議決権行使不正問題を世にさらした投資ファンド)の代表者のインタビュー記事がありました。それに次のような興味深い発言がありました。

多様なステークホルダーの利益に配慮するのは当然であるが、ステークホルダー全体の利益は測定困難であり、「万能の言い訳」としてステークホルダー資本主義が機能すると経営の規律やアカウンタビリティが喪失する。

そのとおりかと思います。株主の利益の最大化を図りつつ、他のステークホルダーの利益にも配慮するのがステークホルダー資本主義であり、見方によっては株主資本主義より、企業にとってはより厳しくなったと言えるのではないでしょうか。