コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

取締役会のスキルマトリックス ー 時間をかけて真剣に考えるようなレベルの話ではないです①

日経新聞の1面で「企業統治の現実」という記事が連載されています。3年前のコーポレートガバナンス・コード改訂の時はここまで日経新聞で取り上げられた記憶があまりないのですが、企業統治に関して、従来よりも世間の関心が高くなっていることの現れかと思います。

本日は最近話題の取締役のスキルマトリックスについて説明したいと思います。スキルマトリックスとは、取締役会に必要なスキルを分野ごとに表にまとめ、どの取締役がどの分野について知見や専門性を備えているかを示した表のことをいいます。

6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-11①で次の規定があります。

取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべである。

企業によっては「さあ、大変だ」「どういうスキルを開示しようか」などとスキルマトリックスの開示をどうすべきか既に真剣に悩みはじめた企業もあるようです。とある上場企業では、社長から指摘を受けて担当者が非常に慌てているようなことをつい先日聞きました。このスキルマトリックスですが、どうして開示が求められているか理由はご存じでしょうか?

機関投資家が、短時間で取締役選任議案で賛否の議決権行使が出来るようにするのが目的で開示が求められているだけに過ぎません。現状、株主総会の招集通知の取締役選任議案では「選任理由」として、文章がつらつら書いてある企業がほとんどです。一方で、機関投資家は何百社という投資先企業の招集通知を総会シーズンに短時間で読み、賛成・反対の議決権行使をしなければなりません。

招集通知を見ると、つらつらと選任理由が文章で書いてはあるのですが、「高度な経営経験を有する」「高い倫理感を有する」などとしょうもないことばかり書かれており、結局、各候補者の専門領域が何かが分からない開示の企業が圧倒的多数です。「このような意味不明の念仏を読む時間はない」というのが機関投資家の本音です。忙しい機関投資家としては、念仏のような選任理由を読むより、短時間で専門領域が一覧で分かるスキルマトリックスでさっさと議決権行使を判断したい。これがスキルリックスの開示が求められている理由です。

では、このスキルマトリックスは、企業サイドは真剣に時間をかけて悩むべきものでしょうか? 結論からいいますと、時間をかけて悩むようなレベルの話では全くないと思います。こんなことに時間をかけて悩むのは、非常の時間の無駄と思います。ニトリのようなオーナー社長の企業であれば、ある程度の時間をかけて考える気持ちも分からないでもないですが、そうでないサラリーマン役員の普通の企業であれば、スキルマトリックスに時間をかけて真剣に悩む必要性はゼロと断言できます。次回、その理由を説明いたします。