中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

コーポレートガバナンス・コード改訂案が公表されました

昨日の日経平均株価終値は前日比+210円の29,388円でした。先日の日経新聞報道によれば、昨年12月末の日本の上場企業の手元資金は101兆円と過去最高になったようです。昨日公表の日銀短観によれば、2020年度の設備投資は前年比マイナスでした。IMFは世界経済成長率を来週4月6日に上方修正で公表する模様ですし、米国ではバイデン政権が今後8年間で2兆ドル規模のインフラ投資を議会に諮る報道があり、今後、企業の業績改善とともに株価上昇は続くのだと思います。

さて、3月31日に金融庁のフォローアップ会議が開催され、コーポレートガバナンスコードの案が公表されました。

https://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/siryou/20210331/02.pdf

3年前の改訂と比べて大きな改訂はありませんが、ESGに関する取り組みの開示が求められており、環境等にあまり取り組んでこなかった上場企業は取り組みの加速が求められるかも知れません。今回の改訂事項の中で企業に開示が求められる事項のうち、いくつかポイントと思われる事項をあげます。

2-4① 上場会社は、女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を示すとともに、その状況を開示すべきである。また、中長期的な企業価値の向上に向けた人材戦略の重要性に鑑み、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。

今回新設された補充原則です。ダイバーシティー(女性だけでなく)の目標値を開示せよというものです。

3-1② 上場会社は、自社の株主における海外投資家等の比率も踏まえ、合理的な範囲において、英語での情報の開示・提供を進めるべきである。
特に、プライム市場上場会社は、開示書類のうち必要とされる情報について、英語での開示・提供を行うべきである。

太字の箇所が今回盛り込まれました。「必要とされる情報」の解釈が各社考えが分かれるところだと思いますが、プライム市場企業はグローバル企業たるべきという方針の下、英語の開示は今後強化されるのだと思います。

3-1③ 上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。特に、プライム市場上場会社は、気候変動に係るリスク及び収益機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、必要なデータの収集と分析を行い、国際的に確立された開示の枠組みであるTCFDまたはそれと同等の枠組みに基づく開示の質と量の充実を進めるべきである。

統合報告書等で既に開示している企業も多いかと思います。

【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、プライム市場上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも3分の1(その他の市場の上場会社においては2名)以上選任すべきである。

今回の目玉と言われている社外取締役の員数の箇所ですね。

4-11① 取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。

スキルマトリクスですね。要は機関投資家が総会の集中する時期に短時間で数百社の取締役選任議案の賛否を判断する上で、一目で分かるスキルマトリクスを開示して欲しいというのが元々の話かと思います。

今回の改訂では政策保有株式に対する改訂はありませんでした。社外取締役3分の1をコードに盛り込むことを認める代わりに、経団連からの要請もあり、政策保有株式は今回は論点から外したのだと想像します。

ということで、3年前に比べると改訂事項は少ないのですが、今回改訂されなかった事項であっても、自社の開示内容が資本市場の求める内容になっているかは確認する必要があるかと思います。「3年前の改訂の際に社内で検討をして開示をしたが、今回は改訂されていないので、開示内容は変える必要はないな」と安易に考えると、自社の開示内容が時代遅れになっていることに気付かない可能性もあります。だだの時代遅れであればたいして気にする必要はないかも知れませんが、アクティビストからつっこまれる材料になるリスクがあります。

上場企業各社は、今回の改訂をタイミングとして開示内容の全体について他社の開示内容と比較して確認をすることが必要になるのだろうと思います。