中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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日本製鉄の東京製綱に対する敵対的TOBが成立 ー 今後は東京製綱の定時株主総会での役員選任が焦点

本日は15時30分から金融庁フォローアップ会議が開催され、約2時間オンラインで会議を視聴しました。プライム市場に入る企業のコーポレートガバナンス・コードの在り方などについて委員からの意見が色々とありました。フィデリティ投信の三瓶氏の意見がなかなか興味深かったですが、ここで書くには分量も多いので触れませんが、会議の最後に事務局から説明があり、次回会議では改訂コーポレートガバナンス・コード案が提示され、議論されるということです。

さて、3月7日に記事を書きましたように昨日が日本製鉄によるTOBの期限でしたが、本日、日本製鉄はTOBが成立したことを公表しました。10%程度の株式取得を目指したTOBですので、成立するのは当然で何ら驚くことではないかとは思います。

日本製鉄のプレスリリースによれば、買付予定数の上限が1,625,500 株であったところ応募株券の総数は2,142,516株と予定数を大きく上回ったようですが、日本製鉄は応募株数の全株を買い取る必要はありません。日本製鉄の本日のプレスリリースでは次の記述があります。

本公開買付けにおいては、応募株券等の総数(2,142,516 株)が買付予定数の上限(1,625,500 株)を超えたため、公開買付開始公告及び公開買付届出書(その後の公開買付届出書の訂正届出書により訂正された事項を含みます。以下同じです。)に記載のとおり、その超える部分の全部又は一部の買付け等を行わないものとし、法第 27 条の 13 第5項及び府令第 32 条に規定するあん分比例の方式により、株券等の買付け等に係る受渡しその他の決済を行います。

TOBでは、公開買付者の買付後の保有割合がたしか3分の2を超える場合には全部買取義務が金融商品取引法で規定されていますが、そうでない場合には、全部を取得する義務はなく案分比例となります。つまり、応募した東京製綱の株主は全株を買いとっては貰えないことになります。

日本製鉄と東京製綱の今後については、前回、以下のとおりブログで書きましたように東京製綱の本年の定時株主総会において、日本製鉄が問題と考えている東京製綱の会長の人事などが焦点になるのだと思います。東京製綱の筆頭株主である日本製鉄の意向を踏まえ、東京製綱が役員人事から問題とする会長を外すか、または、日本製鉄が株主提案をして東京製綱の株主(主として機関投資家)の賛同を求めるかのいずれかのように考えます。

ただ、株主提案となると議決権行使助言会社であるISSに日本製鉄は株主提案への賛成推奨を求めて説明したり、また、ISSが株主提案に賛成推奨しない場合もあり得るので、そういうリスクを考えると株主提案というドラスティックな手法ではなく、東京製綱に対して日本製鉄の考える役員人事を水面下で求めていくのだと思います。

ちなみに、東京製綱も本日プレスリリースを出しており、今後の見通しとして、「当社は、本公開買付けが終了したことを受け、2020 年 2 月 4 日付「日本製鉄株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明(反対)のお知らせ」でお知らせいたしましたとおり、改めて日本製鉄株式会社と建設的な協議を行う所存であります。」と書いております。

本件は興味深い案件ですので、引き続き注視していきたいと思います(東京製綱が買収防衛策を発動して、日本製鉄の議決権割合を希釈化するという措置を講じると新たな論点に焦点が当たり、一段と興味深い事案になるのですが)。