コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

コーポレートガバナンス、中長期での株式投資、企業分析、企業価値評価、IR等について、新聞記事を中心に投資銀行・東証1部事業会社での実務経験を通じて気づいた観点を踏まえて分かりやすく解説していきます

脱・株主第一主義からの脱却 ー ステークホルダー資本主義

本日の日経新聞に「脱・株主編重が市場守る」というタイトルで米国弁護士のマーティン・リプトンという方の記事がありました。日経新聞に大きな写真入りでコメントが出る方なので、普通の弁護士ではなく、この方は買収防衛策の生みの親としてポイズンピルを考案した方のようです。写真と経歴を見ると80歳あたりでしょうか。

マーティンさんは、40年に亘り、株主第一主義からの脱却を訴えていたということです。買収防衛策は、短期的な株価向上を目指して企業を乗っ取り、事業を分離したり、大幅な増配を求めるなどの株主(乗っ取り屋)に対抗することを目的としており、買収防衛策を考案した方であるということは、そもそも株主第一主義とは一線を画する思想の方とも言えます。マーティンさんの考える株主第一主義からの脱却について記者との質疑応答が記事に書かれています(米国では経営者団体のビジネス・ラウンドテーブルが2019年8月に株主第一主義からステークホルダー資本主義に転換したと言われています)。

最近、新聞を読んでいてESGに関する記事がかなり増えていると感じます。イギリスの運用会社がESG開示の不十分な企業の株主総会議案に反対するといった記事やESG情報開示を促す記事などをかなりの頻度で目にします。米国大統領がバイデン氏になることで環境問題への取組みが加速することがこの背景にあるのだろうと思いますが、ステークホルダー資本主義とESGは同じような発想がベースにあると思います。例えば、環境に対する取り組みは、企業の業績には費用増としてマイナス影響を与え、株主にとっては好ましくない内容とも言えます。しかし、株主以外のステークホルダーに目を向けるとプラスとも言えます。

この記事の中で、「企業経営者は全利害関係者を平等に扱い、意思決定することは可能か」という質問に対してのマーティンさんの意見が参考になります。次のとおりです。

私が考えるステークホルダー資本主義とは、個々の利害関係者を等しく扱うのではなく、株主価値の最大化を目指すなかで、従業員や顧客、取引先、環境、地域社会に配慮する経営だ。企業と主要株主が合意して持続可能な成長戦略を進める必要がある

つまり、ベースは株主価値の最大化を図るのが企業経営者の役目ではあるが、そのためには他のステークホルダーの利益を犠牲にしてよいというものではなく、他のステークホルダーにも十分に配慮すべきということです。良く言われることですが、日本企業ではこれまでこの方針で企業経営をしてきたのだと思いますので、日本企業にとっては大きな変化が求められるものではないと思います。ただ、環境(E)や社会(S)への取組みという点は、これまでよりも格段に強く求められています。EとSは上場企業としての「お作法」と見られてきています。お作法が悪い企業とは付き合うなという風潮にあります。

機関投資家とのエンゲージメント(対話)を11月頃から実施している企業もあれば、年明けから対話を実施する企業も多いと思いますが、恐らく機関投資家の関心も前回に比べて大きく変わってきているのではないでしょうか。

Z世代という言葉を最近聞く方も多いと思います。これは1990年代後半以降生まれの方で、環境に配慮した商品・サービスなら高価格でも購入する傾向にあると言われています。私には、このような経済合理性から外れた考えは到底理解できませんが、この世代にとっては、株式投資においても、同じ考えなのかも知れません。つまり会社に株式投資するにあたっては、その会社の業績だけでなく環境への取組みを重視するのだと思います。ESGは今後ますます重要になってくるのでしょう。上場企業としては、経営トップが機関投資家とESG対話の機会を持ち、市場の声を経営に反映させていく必要が今後ますます強くなります。