中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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ストラテジックキャピタルが京阪神ビルディング(8818)に敵対的TOB - 京阪神ビルの「政策保有株主」は理論武装が必要

昨日、アクティビスト(物言う株主)のストラテジックキャピタルが京阪神ビルディング(8818)に敵対的TOBを開始することを公表しました(本日の日経新聞にも掲載されていました)。TOB価格は1株当たり1,900円、取得株式数は下限・上限ともに10,206,100株です。

ストラテジックはこれまで京阪神ビルに株主提案をしてきましたが、今般、TOBの運びとなったわけです。京阪神ビルの取締役構成は社内取締役の過半数三井住友銀行出身者という大きな問題があり、私も6月13日にブログで次の内容を書いています。 今回のTOBを受けて京阪神ビルの株価は昨日の終値から大きく上昇しています。今回のTOBの取得予定株式数は発行済株式数の20%で、ストラテジックは9.4%の株式を既に保有しているので、TOBの成功により約30%の株式保有となります。

京阪神ビルの経営権を支配する予定はないのでしょうが、30%超の保有比率ですと株主総会の特別決議事項を否決することが可能であり、ストラテジックの説明文にもその旨が記載されています。京阪神ビルが定款変更、事業再編をする場合、ストラテジックはこれを否決することができるのです。

TOBの成功のポイントは1つで、TOBに応募する株主が京阪神ビルにいるかどうかですので、株主構成を見る必要があります。上場企業の株主構成は有価証券報告書(有報)、株主宛に発送する事業報告書、中間事業報告書に掲載されていますが(有報への記載は義務)、ストラテジックの公表資料に株主構成が詳細に記載されています。

大きい順に①事業法人41.6% 金融機関28.3% 外国人16.9% 個人9.8%です。金融機関には商業銀行と国内機関投資家が含まれますが内訳は不明です。外国人株主は、1,900円に満足するのであれば、TOBに応じる可能性は高く、個人株主も恐らく応じると思います。逆に絶対に応募しないのは➀の事業法人です。

いわゆる持ち合い株式で、安定株主といわれているところです。この「事業法人」の内訳は不明ですが、大きなところは2019年度の京阪神ビルの有報を見ると推定できます。有報によれば、「政策保有株式」は上場企業が27銘柄(12,286百万円)となっており、各銘柄の欄に相手方が京阪神ビルの株式を保有しているか否かが「有・無」で記載されています。「有」と記載されている主な会社は次のとおりです。

ダイキン工業きんでん、三精テクノロジーズ、ダイビル、クボタ、丸一鋼管、三井住友フィナンシャルグループ三井住友トラスト・ホールディングスレンゴー、ニチハ、大和ハウス工業能美防災鹿島建設 など

これらが京阪神ビルの政策保有株主です。

各社の京阪神ビル株式の取得価額が不明ですが、京阪神ビルの過去の株価推移をみると1990年以降1,900円を超えたことはなく、1989年の1,850円が最高株価で(89年12月29日は日経平均が39,000円です)、2000年以降は1,000円を大きく下回っています(300円~800円程度)。

では、京阪神ビルの政策保有株主は、今回のTOBに当たりどのように対応する必要があるのでしょうか?

京阪神ビルとの付き合いを考えるとTOBに応じるということは100%ないのでしょうが、「応募しない」ことの合理性をきっちりとつめておく必要があります。1,900円でTOBに応じれば確実に売却益が出るところ、これに応じないということは、民間企業の存在意義である営利追求に反することになり、株主から説明が求められる可能性があります。

つまり、「TOBに応じれば50億円の株式売却益が出るところ、これをしないということは京阪神ビルの株式を保有することが50億円以上の利益を生むことだと考えているのだと思うが、この理由を明確に示せ」という質問が出る可能性があります。従い、自社の取締役会又は経営会議あたりで経営トップを交えて方針を固めておく、つまり理論武装をしておく必要があるのだろうと思います。

大戸屋ホールディングスの件、島忠の件など敵対的TOBの案件が少ないながらも確実に増えています。敵対的TOBの場合に買収される企業の政策保有株主は、自社の株主に対しての説明義務が今後益々求められていくように思います。