コーポレートガバナンス、株式投資、企業価値、IRなどに関する投資家目線での実務ニュース ー 強い意志のある投資を目指して

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「人材版 伊藤レポート」が公表されました - 人材戦略と企業価値向上がフォーカスされています

2020年1月に経産省が「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」を立ち上げ(座長は一橋大学の伊藤邦雄氏)、検討会が進められてきましたが、9月30日に「人材版伊藤レポート」の名称で報告書(レポート)が公表されました。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/kigyo_kachi_kojo/20200930_report.html

このレポートでは、企業価値の向上と人的資本に焦点が当てられており、企業価値向上における人材戦略について、取締役会で議論し・モニタリングすること、機関投資家はESGの中において人材戦略を含めた「S」について企業との対話を充実すべしといったような内容が記載されております。主な事項は次のとおりです。

1 経営陣の果たす役割

  • 経営戦略目標達成の上で重要となる人材アジェンダを設定すべき
  • 重要な人材アジェンダ毎に目指す姿を定量的なKPIで設定し、目指す姿と現在のギャップを定量化すべし
  • CEOの戦略パートナーとなる最高人事責任者を設置して、経営戦略上重要なアジェンダには最高人事責任者が幅広く関与すべき
  • 人材戦略の進捗等を投資家に積極的な発信・対話。人材戦略の妥当性について取締役会での議論や課題についての充実した開示

 2 取締役会の果たす役割・アクション

  • 人材戦略を取締役会で議論すべき
  • 人材マネジメントの専門性ある人材の取締役への起用
  • 経営陣の策定した人材戦略と経営戦略との連動のモニタリング
  • 人材戦略の実行状況について取締役会で議論するとともに、KPIを用いながらモニタリング実施
  • 社外取締役は人材戦略の議論をあるべき方向に導く役割が期待されている

 3 投資家の果たす役割・対話

  •  ESGの中、これまで「E」の要因が注目されがちであったが、新型コロナの状況下で「S」の要因の重要性が再認識されてきている
  • 企業の開示資料から投資家が企業の人材戦略を詳細に判断・理解するのは難しい。このため、人材戦略の進捗管理の指標等も参考にし、対話の中で議論・確認するべき
  • 経営陣と投資家の間で経営戦略と人材戦略に関する対話を深化させることが望ましい

一言でいうと、人材戦略は企業価値向上に重要であるため、戦略に対する経営陣の取り組み方、取締役会の関与を規定するとともに、投資家にも積極的な取り組みを促すという内容です。人事担当取締役は、日本企業では地位は高くないのが常ですが(管理部門では、財務担当役員が常に上位に位置し、法務担当役員などは普通は存在せず、仮に存在してもかなり低い地位といったところでしょう)、米国企業のようにもっと重要なポジションとして位置付けるべきということのようです。2014年に制定された伊藤レポートのように今後このレポートの活用は広がるでしょうか。本日の日経新聞の1面では、今後改訂が予定されるコーポレートガバナンス・コードで女性活用が盛り込まれるような記事がありましたが、この人材版伊藤レポートの内容も場合によっては盛り込まれる可能性も高いかも知れません。

上場企業のマネジメント層や実務担当者は是非一読されるとよいかと思います。しかし、この伊藤氏は高齢者ですが、レポートに自分の名前を付けるのが好きな方ですね。