中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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ソフトバンクの理論株価 - DCF法での理論株価分析は単純ですが欠点も多い

8月26日の日経新聞ソフトバンク理論株価と市場株価に乖離があるという記事がありました。8月25日の終値は1,475円ですが、DCF法による理論株価を算定すると1,800円ということで市場株価が400円近く低いということです。

DCF法での企業分析の表まで詳しく掲載されており、DCF法を使ったことのない方には、参考になる記事かと思います。しかし、DCF法での企業価値算定は、以前に何度かブログでも取り上げたことがありますが、欠点もあることには注意する必要があります。

ソフトバンク理論株価算定では、今後3年間の事業計画でのフリーキャッシュフロー(FCF)をベースに算定しています。DCF法での株式価値算定に至る式は、次のとおりになります。

  • FCF= 営業利益×(1-法人税実効税率)+減価償却費 - 設備投資額 - 運転資本増加額 
  • 将来FCFの割引現在価値=事業価値
  • 事業価値+余剰資金(現金、遊休不動産等)=企業価値
  • 企業価値 - 有利子負債=株式価値(理論上)

DCF法でソフトバンクの事業価値を3年の予想期間で簡易的に算定することは問題ないのですが、DCF法では事業計画の予測期間を過ぎた後のFCF(継続価値)が算定数値の大部分を占めることになります。

ソフトバンクの場合、2020年度~2022年度の3年間のFCFの割引現在価値の合計は11,839億円ですが、これに加算するのが、4年目以降のFCF(継続価値)の63,351億円となっています。継続価値は事業計画の最終年度のFCFをベースに算定するので、もし、5年間の事業計画があり、3年目までは業績好調であるも4年目から業績が不調になる予測を立てていると継続価値は大きく下がり、結果、事業価値、ひいては株式価値が大きく下がります。

ということで、DCF法は、そもそも3年~5年などという予測数値自体が信頼性が乏しいのですが、その上、事業計画終了後の継続価値などは更に信頼性が乏しい上での算定ということになります。今回の新型コロナによる売上減であったり、コロナがなくても大口顧客の失注などで将来売上が減少するスクはありますが、こういうリスクは考慮していません。

現状の損益をベースに、市場の成長率、DGPなどの外部環境を踏まえて、適当に鉛筆をなめて作成した事業計画が前提の全てになるのです。企業が3年間の事業計画が未達などという例は普通にあるので、いかに適当な算定かということはDCF法の実務経験者は良く理解しているかと思います。

「DCF法で株式価値を算定しました」などという言葉を聞くとDCF法をやったことのない人は、なんかすごいことをやっているような印象を持ちますが、DCF法の信憑性は高いものではないことを理解する必要はあります。

とはいうものの、企業価値算定の1つの「お作法」であることも事実ですので、個人投資家の方も投資先銘柄の中期経営計画と過去の損益実績をベースにDCF法で株式価値を算定して、市場株価が低い場合には、株主総会に出席して、議長である社長に質問したりすると面白いかも知れません。