中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

TBSドラマ「半沢直樹」について専門的な視点から解説(第1話より)ー新株発行による買収防衛策は法的問題ありです

前回は第1回の放送を見て、あまりにいい加減なシーンを指摘しましたが(機密情報の扱いが現実には100%あり得ないほどテキトー)、今回は真面目に内容の検討に入りたいと思います。

電脳雑技集団がスパイラルに敵対的買収をしかけようとしています。時間外取引でスパイラルの発行済株式の30%を取得したのですが、公開買付(TOB)の手法を使っていません。まずはこれについて解説したいと思います。

場外で株式を取得する場合、次のいずれかに該当する場合、金融商品取引法で規定するTOBの手続きを経ることが法的に義務付けられています。

  1.  10名を超える株主から発行済株式の5%超の株式を取得する場合
  2.  10名以下の株主から発行済株式の3分の1を超える株式を取得する場合

今回のケースでは、電脳は、スパイラルの共同創業者である株主2名から発行済株式の30%を取得しており、上記2に該当しないためTOBは不要なのです。ただし、電脳はスパイラルの経営を自由に支配したいと考えているようですので、そのためには過半数の株式取得が必要で、今後20%超分を取得していく必要がありますが、第1回ではこの点は特に触れられていません。

さて、これに対してスパイラルは買収を防衛する必要があります。そして、この敵対的買収に対して、スパイラルの財務アドバイザーとして太陽証券の営業担当が買収防衛策を提示しています(なお、アドバイザー契約を締結していないのに、財務アドバイザーということもあり得ませんので、これも間違いです)。

その手法が第三者に対するスパイライルによる新株発行です。つまり、スパイラルが新株を大量に発行して、電脳以外の第三者に引き受けて貰うことで、電脳の株式保有比率を下げようというスキームです。電脳の議決権比率を下げて、法的権利行使が出来ない程度まで力を弱めようという戦略です。この第三者ホワイトナイト、つまり「白馬の騎士」といいます。では、この戦略は法的に有効でしょうか?

この点は、2005年頃にライブドアニッポン放送を買収しようとして訴訟になり、東京高裁の判例が出ており、新株発行(第三者割当増資)は、資金調達目的が原則必要で、特定の株主の議決権保有比率を低下させる目的の発行は、次の4類型の場合を除いて認められないとされ、ライブドアはこの4類型には当たらないと判断されました。

  • 真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、株価をつり上げて高値で株式を会社または会社関係者に引き取らせる目的で株券等の取得を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーの場合)
  • 会社経営を一時的に支配し、事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先または顧客等の会社の資産を当該大量買付者またはそのグループ会社等に移転させる目的で株券等の取得を行っている場合
  • 会社経営を支配した後に、会社の資産を当該大量買付者またはそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として不当に流用する目的で、株券等の取得を行っている場合
  •  会社経営への参加の目的が、主として、会社経営を一時的に支配して、不動産、有価証券等の高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株券等の高価売り抜けをすることにある場合

今回の電脳は普通に考えると、この類型には当たらないと思います。理由は事業を普通に営んでいる企業だからです。従い、スパイラルがホワイトナイトに第三者割当増資をした場合、これに対して電脳が差し止め請求をすると、裁判所が差し止めを認める可能性が極めて大なのです。

と第1話ではここまでの解説になります。ドラマでは、メールの送信記録について、たかだか部長クラスの社員が情報システム部門に指示をして完全消去している、社内で仕事をしている社員全員が終日スーツの上着を着ているなど現実には100%あり得ないい、とても荒唐無稽な描写も多々ありますが、その点は今回は触れません。

今夜は第3話になりますが、録画をした第2話について、まだ半分しか見れていませんので、本日どこかで見て、次回は第2話について解説をしていきたいと思います。