中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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メインバンクOBが取締役会の「多数を占める」のはコーポレートガバナンス・コードの観点から問題ありな気がします

6月12日の日本経済新聞に「物言う株主が『NO』」というタイトルの記事がありました。

内容は、京阪神ビルディング(8818)の社内取締役の過半数三井住友銀行出身者で占められているということで、これに対してストラテジックキャピタルの丸木 強氏が、「会社が私物化されている懸念がある」として株主提案をしているというものです。丸木氏は、東京大学を卒業して野村証券に入り、その後、元村上ファンドで幹部をされていた方です。

メインバンク出身者が取締役になることの是非の議論は以前からあるところであり、議決権行使助言会社であるISSはメインバンク出身の「社外取締役」は独立性はなしと判断しています。

しかし、社内・社外取締役の別に関わらず、メインバンク出身者が取締役として1名でもいることがいけないことかというとそれは「違う」と思います。メインバンクは企業の存続にとって必要不可欠な存在であり、メインバンクであるが故に融資先の企業のことを理解していると言えます。勿論、現実にはどこまで深く理解しているかは、融資先企業の規模感、融資額、長年の信頼関係等によりますが。

コーポレートガバナンス・コードでは、取締役会の多様性が求められているところ、取締役には金融の専門知識を持つ人材は必須であり、プロパー社員で経理一筋といった経理屋の取締役(勿論重要です)以外に、金融の専門知識を持ったバンカーとしてメインバンクOBが入る必要性はとても高いように思います。

また、企業の規模が大きいほどメインバンクは、当然ながら都銀になりますが、一方で、大手メガバンクである都銀の数は限られます。メインバンクOBがNGとなると、残るは地銀OBとなりますが、正直、売上規模が数千億以上の企業に地銀OBが入っても畑違いです。地銀の融資先は地方の中小企業がほとんどあり、グローバル展開する売上高が数千億、数兆円以上ある企業で地銀OBで取締役が務まるかというとそれはかなり難しいと思いますし、そもそも機関投資家も納得しないと思います。

従い、繰り返しになりますが、1名程度のメインバンク出身者は必須と思います。銀行としても、能力はあるが、運悪く役員になれず部長で終わるバンカーを、融資先企業で活用できるというメリットもあるかと思います(そもそもメガバンクの部長クラスは、一橋大、旧帝大早慶出身者がかなり多く、一般上場企業の部長より、レベルが極めて高い(そして給料もかなり高い)ということは良く言われているところです)。

しかし、この京阪神ビルディングのようにメインバンクから多数のOBが取締役になっているのは、如何なものかと思います。コーポレートガバナンス・コードで求められる取締役会の多様性に反しており、そもそもとして、事業が分からない銀行OBの方がそんなにたくさん取締役に入っていて「どうするの?」という疑問があります。

京阪神ビルディングのケースでは、メインバンクで元理事、元部長といったように取締役でなかった肩書の方もおります。京阪神ビルディングは売上高150億円、株式時価総額が700億円規模の中小型銘柄ですので、この新聞記事を見て、京阪神ビルディングに「引き受けて頂いたのだろう」という印象を持つ方は、かなり多いものと思います。

今回のケースでは、ストラテジックキャピタルの丸木氏は、自らを取締役候補者とする株主提案をしております。ストラテジックの株式保有比率は6%程度ですので、丸木氏は「要求の通る可能性は低い」ということが記事に書かれています。しかし、一方で、ISSは丸木氏の提案に賛成しています。

京阪神ビルディングの本年の株主総会の招集通知を見ますと、安定株主の保有比率は最低でも29%あります。2020年3月末時点の外国人(海外機関投資家)株主比率は不明ですが、ISSの判断により、外国人株主の多くは丸木氏の賛成に向かうのだと思います。安定株主は全員丸木氏の提案に反対しますが、国内機関投資家はどう動くのか関心があるところです。株主総会は6月16日です。