中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

議決権行使にESG基準を採用ーしかし、企業評価(株価)の9割は「業績」でESGは「味付け」ですのでお間違えなきよう

本日、2月23日(日)の日本経済新聞に「議決権行使  ESG基準に」という見出しの記事が掲載されていました。内容は、機関投資家が議決権行使に当たって投資先銘柄のESG(環境・社会・ガバナンス)の評価も判断材料にするということです。わかりやすく解説します。

  • 機関投資家(資産の運用会社のことです)がある会社(A社とします)に投資しているとします
  • A社が本年6月の定時株主総会で取締役5名の選任議案を会社提案しています。機関投資家はA社のこの取締役選任議案に対して、賛成又は反対のいずれかの議決権行使をします
  •  ここでA社のESG(環境・社会・ガバナンス)について外部評価会社(ベンダー)がスコアをつけており、A社のE(環境)の取り組みが悪く、結果、ESG評価点が低い状況にあります
  •  これを理由に機関投資家がA社のこの取締役選任議案に対して、候補者全員または経営トップの候補者に「反対」の議決権行使をした

とてもシンプルにいうと以上になります。

機関投資家は自社の保有先銘柄に対する議決権行使基準をもっており(これは毎年改定するのが通常です)、この基準に従い投資先企業の定時株主総会または臨時株主総会で議案に賛否のいずれかを投じることになります。

例えば、「営業赤字が続いていたり、ROEが低い、PBRが1倍を下回るなどの企業の取締役選任議案には反対します」といったような基準を設定しているのです。最近のESGに対する高まりから、この基準において、業績や株価以外にESG評価を米国の機関投資家が考慮するようになってきたということです。

極端な例でいうと、ROEが10%以上ありながら、ESG評価があまりに低いと議決権行使の際にマイナス評価されるということです。

大手企業を中心にESGに力を入れ始めた上場企業は多いかと思いますが、この取り組みを今後も一定程度真面目に取り組んでいく必要がありそうです。

なお、新聞や雑誌には明確に書かれていませんが、企業の評価は業績であり、業績が株価評価の構成要素の9割以上を占めるという現実はこの先も変わりません。所詮ESGなどというものは、「味付け」のレベルであり、ここにあまりに力を入れるのは本末転倒ですが、企業のCSR部門の方などは、IR部門や財務部門出身でない場合、財務会計や株式指標など全く理解できていない人も多く、必要以上にESGの重要性を社内で説くケースもあると耳にしたことがあります。

ESGというのは、より分かりやすい例でいうと、東京大学の今年3月の卒業生に田中君と鈴木君がいて、どちらも学業成績は抜群(=会社でいう業績)で優劣をつけ難いところ、鈴木君は部活動や社外活動も頑張っており、結果、大学の教員からの評価も高い(=会社でいうESG)場合、鈴木君が首席卒業証書を得るというようなものです。首席で卒業できるのは、学業ありきということが大前提です。

「学業」とは企業でいえば、「業績」であり、これが上場企業の株価を決定する要因の9割以上を占め、残り1割がESGという感覚でESGは見ておけば足るかと思います。