中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

買収防衛策は全ての局面に適用できるものではない-はじめて導入を検討する上場企業は理解する必要があります

買収防衛策を廃止する企業が増えています。最近の世の中の動きを見ると、安定株主ががっちり株式を保有している会社を除き、買収防衛策導入企業は、ますます少なくなる方向なのだろうと思います。

その理由はとてもシンプルで機関投資家に資金の運用を委託しているGPIFなどのアセットオーナーの買収防衛策への批判が強く、今後この流れは止まることはなく、機関投資家が買収防衛策の株主総会議案に反対をするため、株主総会過半数の可決を得るのが難しく廃止ということです。

 ところで、買収防衛策というとその言葉から、万能なスキームであるかのような印象を受けることもありますが、買収防衛策が適用できる局面と適用できない局面は明確に認識されているでしょうか?

2007年頃は外資・国内を問わず証券会社の投資銀行部門が買収防衛策の積極的な導入提案でフィーを稼いでいましたが、今の時代、買収防衛策の導入を商売のネタにする投資銀行は存在しないと思いますが、まれに買収防衛策の必要性を熱心に語る個人業者もいると知り合いに聞いたことがあるので(本当にいるのか私は知りませんが)、一応書かせて頂きます。

今の時代、買収防衛策が適用できない局面が多いのが現実です。この点は今後、新規に導入しようか否かを考えている上場企業の方は明確に理解する必要があります。

買収防衛策は、一般的に買収者が市場内外で20%以上の株式を取得する場合に、会社が買収者のみが権利行使できない差別的行使条件の付いた新株予約権を発行し、買収者の議決権比率を希釈化するというものです。

ポイントは、20%以上の株式取得という点です。つまり、10%程度の株式取得にとどまり、単独で株主提案等をしても適用できるケースには適用できないのです。

では、単独で20%以上の株式を取得する投資ファンドであるアクティビストはどの程度存在するのでしょうか。

少し前の週刊ダイヤモンドでアクティビストが株式を保有する会社のリストが掲載されていました。なかには20%の株式を保有するアクティビストもいますが、私の記憶でですとほとんど10%程度の株式保有であったかと思います。つまり、買収防衛策が適用できる比率まで株式を保有している投資ファンドは少ないのです。

買収防衛策の関心が高まり、投資銀行がこれを商売の種にしていたのは2007年前後に米投資ファンドブルドックソースを買収しようとしたように50%超の株式取得を狙った事例が背景にありますが、今の時代はアクティビストが単独で50%超の株式を取得しようとするケースはまず想定い難く、少数(10%程度)の株式を取得して、他の一般株主を巻き込んで提案をするケースがほとんどです。

買収防衛策などという言葉を聞くと、本当の買収(50%以上の株式の取得)のみならず何でも防衛できるような印象を受けますが、そんなことはないのであり、今の時代には適用できない局面もかなり多いことが分かります。

もっとも、保有株式数が多い方が買収者は自己の提案を通しやすいので、時価総額の小さい企業では20%以上の株式を取得されるハードルは低いので、こういう会社は買収のリスクがあり、従って買収防衛策は有効なのだと思います。

このように自社の株式時価総額の規模感を見て、その上で20%以上の株式を買い占められるリスクがあるか否かを判断して導入するか否かを考える必要があります。

自社の株式時価総額の20%相当の株式を「市場内外」でいきなり取得されるリスクがあるというのであれば、買収防衛策の必要性は高く、そういうリスクはほぼないというのであれば、買収防衛策の適用局面は想定しがたいということになります。