本年6月の定時株主総会も終わり、上場各社の議案賛成率も臨時報告書でひととおり開示されました。各社、コーポレートガバナンス・コードの要請に従い、反対率の高い議案の精査などをされているところかと思います。
買収防衛策議案は本年は昨年以上に廃止した企業が増え、また、可決できた会社も賛成率の低かったところも多かったことと思います。
本日は、少し古い話になりますが、2005年5月に経済産業省と法務省が「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(ガイドライン)を公表しており、今更ながらのところもありますが、これについて説明します(これが買収防衛策の正当性の根拠の1つになります)。
このガイドラインでは、買収防衛策の正当性について4つの原則を掲げています。
各原則についてポイントをあげます。
1では、濫用的敵対的買収のほかに、株主の誤信を正すために情報を提供したり、会社が代替案を提示する機会を確保するための防衛策はこの原則に該当するとされています。つまり敵対的買収に株主が応じるか否かを判断する上で、株主に十分な情報を確保するための防衛策は、正当であるということです。
2は、買収防衛策の内容を事業報告、有価証券報告書で記載して広く開示せよというものです。要するに、買収防衛策は買収者を不利に扱うものであることから、その内容は事前に開示しておくことが必要ということです。これにより株主の予見可能性を高めることにつながります。
3は、買収防衛策の導入に当たっては、株主総会の承認を得るべきということです。最後に、4は、株主平等の原則、財産権の保護、経営者の保身のための濫用防止等に配慮すべしというものです。防衛策で規定する対抗措置としては、差別的行使条件を付した新株予約権の交付がありますが、このガイドラインでは、これは株主平等の原則には反しないとされています。
買収防衛策は2007年前後に森・濱田松本法律事務所などはじめとする大手上場企業を主要顧客とする超大手法律事務所が中心になり策定しているケースが多いと想像します。
当時導入した企業は、このガイドラインを踏まえ、法律事務所のアドバイスの下で策定しており、企業側の方も、当時実務を担当された方は、このガイドラインを熟知されていると思います。
しかし、今では、2007年頃の最初の導入時期からすでに10年以上が経過し、各社とも導入時の担当者、役員も人事異動や退任で全員変わってしまっているのがほとんどかと思います。
とすると現在の買収防衛策の考えのベースとなる、このガイドラインまでしっかりと目を通している実務担当の方は、買収防止策導入企業の中でも案外少ないのかも知れません。
前任者から引き継ぎ、今の買収防衛策をそのままのものとして認識するのではなく、古いですが、このようなガイドラインをあらためてきちんと目を通すと自社の買収防衛策を深く理解できると思います。
しかし、ガイドラインを作ったときは、機関投資家も策定委員に入っていましたが、15年たった現在では、当時ガイドラインを策定した機関投資家が買収防衛策に反対するというのはどうも納得がいかないような気がしないでもありません。
機関投資家は、アセットオーナーからお金を預かり、投資先銘柄に議決権行使をするのですが、要するにアセットオーナーの目線が厳しくなっているということは理解するのですが。
当時に比べて、最近は国内機関投資家の目線もだいぶ厳しくなっています。本年6月の国内機関投資家の議決権行使の個別開示なども余裕があれば今後紹介していきたいと思います。