中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

余剰キャッシュの使途としてM&Aを理由にする場合の投資家の受けとめ方

先週で上場企業各社の株主総会も終わったことと思います。本年の株主総会では、過去に比べてかなりの数の株主提案があったようですが、政策保有株式の売却等による資金の捻出とそれを原資とする配当増提案もあったかと思います。

この動きは来年以降も継続すると思いますが、余剰キャッシュの使途としてM&Aを理由にあげる企業も多いのではと思います。本日はこれについて、投資家はどのように受けとめるのか、また、個人投資家はどのように受けとめる必要があるのかについて触れてみたいと思います。

一定規模の上場会社によるMAは対象会社の規模にもよりますが、買収金額だけでも数十億円から数百億円かかるケースが多いです(これ以外に弁護士等の業者の費用がプラスされます)。従って、溜め込んだキャッシュの使途としてM&Aをあげるのは一応合理的です。しかし、問題は漫然と「M&Aをします」との説明だけでは投資家は納得しないということです。

特にM&A(他社の買収)をほとんどしたことのない会社(以後「M&A初心者企業」といいます)が決算説明会資料などで「M&Aの資金使途」とだけ書いていても、その実現度合いの信憑性は乏しいと受けとめられる可能性が高いです。

6月26日の日本経済新聞でPWCアドバイザリーの調査結果として、過去10年で海外M&Aに取り組んだ国内上場企業86社を対象に集計したところ、買収した海外企業の業績が当初計画を下回っていると回答した企業が約36%とのことです。実際にはもっと高い比率ではないかなと推測します。この結果だけに限らず、海外企業のM&Aは失敗の確率が非常に高いと言われております。

上場企業のM&Aというと海外M&Aを意味するところが多いかと思いますが、海外M&A成功の難易度が高いため、M&A初心者企業が「M&Aをやります」といっても、機関投資家からすると「どうせ失敗するのでは」と考えてしまいます。

失敗するのであれば、M&Aで強化するよりも、「強化しなければならない事業」は、強化することを努力するのではなく、価値のあるうちにさっさと売却して、その資金を株主に還元せよと投資家はいいたいところです。

M&A初心者企業が、余剰キャッシュについてM&Aの使途を主張するのであれば、①あえて難易度の高いM&Aを実施する具体的な領域・規模感、②M&Aを成功させるための社内体制について十分に説明することが必要ということになります。

①のM&Aの対象分野を具体的に説明するのも重要ですが、しかし、あまり具体的に開示することになると、競合他社に手の内をあかすことになるので限界があります。そこで、個人的には、②の点について、M&A部署の社内体制整備を示すことが投資家への説明に説得力があるのではないかなと思います。

具体的には、投資銀行出身者を中途採用したりしてM&A部門の強化を図り、それを説明することなどがあると思います。M&A初心者企業でM&Aの部署があるといっても、投資銀行出身者が「ゼロ」となると、本当に「大型のM&Aなどできるの?」という疑問を投資家は持ちます。

「うちは少数精鋭の部署です」といっても、M&Aの部署は、そもそも普段はほとんど仕事がないわけですから、見方によっては暇な人の集まりの部署と見られることになります。このような中で投資銀行銀行出身者がいないようだと、「本当に大型のM&Aなど出来るの?」という疑問を持たれることになるわけです。

個人投資家の方は、投資先銘柄の決算資料や中期経営計画資料でM&Aの取り組みとある場合、その一方で、株主還元が十分でない中、キャッシュが十分な場合には上記のような視点で投資先銘柄に質問をしてみるとよいかも知れません。