中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

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上場子会社を持つ親会社は今後検討すべき事項が増えます-経産省の「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」案より

2月26日の日本経済新聞で、上場子会社に関する指針を政府が検討開始とありました。これは、本年2月13日に討議された経産省のCGS研究会(第2期)の第14回会議で討議された「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(案)」の骨子案に書かれていることです。

この骨子案の中で「5 上場子会社の在り方」という箇所において上場子会社について触れられています。ちなみに、親会社が上場会社である上場子会社数は約260社ほどあります。

上場子会社における課題は10年以上前から言われていうことすが、極めてシンプルで、支配株主である親会社と上場子会社の少数株主との間で利益相反リスクが存在する点です。

具体例をあげますと、A社という会社が上場子会社B社(A社の株式保有比率55%)を持つときに、A社がグループ再編としてB社の特定事業を譲り受けるとします。この場合、A社は安く買いたいというインセンティブが働きますが、一方、B社の少数株主は高く売りたいというインセンティブが働きます。

事業を高く売却できれば売却代金を配当原資にもできるので当然ですよね。しかし、A社は50%以上の支配権を持つので、結局はA社の意向に沿う意思決定がなされる。これが問題とされるケースです。

私が社会人になって2~3年目の頃にも既に上場子会社の問題は一般に言われていました。今回の骨子案ですが、次のような事項が記載されています。

  • 親会社は、子会社を上場会社として維持する合理的理由と実効的なガバナンス体制の整備状況を取締役会で審議し、情報開示すること
  • 独立社外取締役には、支配株主である親会社からの独立が求められる
     - 親会社の出身者は独立社外取締役として選任しないことを検討すべき
     - 選任に当っては、少数株主の利益保護が図れるように役割を担うことができる人物であることを十分に検討する
  • 上場子会社において、独立社外取締役の比率を高める(3分の1以上又は過半数)のが基本。しかし、当面は、利益相反取引の発生する局面において、独立社外取締役のみで構成される、または独立社外取締役過半数を占める委員会において審議することでもよい。そして、取締役会は委員会の審議結果を尊重すべき
  • 上場子会社は、実効的なガバナンスのための方策について、積極的に情報開示を行うこと
  • 上場子会社の経営陣の指名の在り方
      -  親会社から候補者の提案を受けることは否定されないが上場子会社の指名委員会等において適格性について客観的な判断を行うことが求められる
      -  親会社の指名委員会において、グループ全体の経営陣の後継者計画の審議に当たっては、上場子会社における検討に対し、不当な影響を与えないよう留意すべき
  • 上場子会社経営陣に親会社株式報酬を付与することは、親会社利益を優先する不適切なインセンティブを与える恐れもあるため、慎重な検討が行われるべき など

いかがでしょか。沢山あるかと思います。

上場子会社を有することで今後はこれらの対応が必要ということですね。親会社にとっては自社のコーポレートガバナンス対応でも大変なのに、上場している子会社のガバナンスについても従来より踏み込んで検討せよというのは結構面倒かと思います。

上場子会社を非上場にするケースが今後増えるかも知れません。

私がすぐに思いつくところでは、日立製作所などは日立化成、日立金属などの上場子会社を数社もっています。

これらの会社は子会社なのですが、上場してしまっている以上は、経理(4半期決算)や総会関係部門、IR部門に相当程度の陣容を抱えているかと思います。しかし、上場廃止になると確実にこれらの部門の人員は余剰人員になります。上場廃止に当たっては、これら管理部門の人員の配置転換、リストラなどの施策の検討も必要になりますので、廃止するにおいても面倒な面も出てくるかと思います。

CGS研研究会ではまだ骨子案しか開示されていませんが、次回の第15回会議(3月14日に開催)では、ガイドラインの詳細が公表されるのかも知れません。

第15回会議の後に資料を読んで紹介したいと思います。