中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

帝国繊維の取締役会意見はもう一歩踏み込んでもよいのでは?-投資ファンドのスパークス・アセットによる株主提案

投資ファンドであるスパークス・アセット・マネジメント(以下「スパークス」)が帝国繊維(東証1部 / 3302)に1月21日に株主提案をしています。

内容は、取締役の選任、剰余金の配当及び定款の一部変更の3つになります。これに対して、2月14日に帝国繊維の取締役会が全ての株主提案に反対する旨の取締役会意見を公表しています。

今回は、このうちの剰余金配当に絞って、帝国繊維の取締役会の意見をみて「これでよいの?」と思うところがありましたので、書いてみたいと思います(なお、あくまで開示資料を見た限りでの私の意見であり、人によっては見方が違うところもあるかと思いますので、その前提で読んでいただければと思います)

 まずスパークは何を主張しているのかですが、「1部当たり95円の配当をせよ」といっています。2018年12月期の帝国繊維の決算短信を見ると、今期、前期とともに1株当たり配当は40円ですので、2倍以上の配当増を求めていることになります。

帝国繊維の一般株主にとっては、配当が倍になるのでとても喜ばしい株主提案だと思います。 

この提案の理由としては、次のようなことが開示文にかかれています。

  • 帝国繊維の総資産の3分の2が政策保有株式と現金同等物で占められている。政策保有株式の中では、ヒューリック株式180億円を有しているところ、保有の合理性が見出せない。コーポレートガバナンス・コード(CGコード)では、政策保有株式の保有の合理性の検証が上場企業に求められているが、帝国繊維におけるこの検証の具体的内容は不明であり、適正・公正な検証実施すらされているのか疑わしい
  • キャッシュが蓄積され続けており、総額231億円と総資産の3分の1に達している。どの程度のキャッシュ保有が必要かが示されていない。必要なキャッシュの保有量の考え方を株主に示し、長期的な視点に基づく成長投資と株主還元に関する明確な方針を開示すべき

 要するに、政策保有株式の保有には合理性がないためこれを売却し、現在保有するキャッシュと併せて、事業活動・成長投資に必要なキャッシュを超える分は株主に還元せよということと思います。とても合理的かつ論理的な提案であると思います。

 では、これに対する帝国繊維の取締役会の意見はどうでしょうか。開示文を読みますと、概ね次のような内容です。

 <帝国繊維の取締役会意見のポイント>

  • 企業の存続・発展のために、内部留保拡充は不可欠。磐石な財務基盤は防災事業を中核に据えて成長を目指す当社にとって、事業展開への活用や社会的信用の維持の貴重な裏付けになる
  • 株式を含むキャッシュは、人材確保、既存事業強化のIT化、成長のためのM&A保有不動産の再開発などといった投資などに用いることを検討
  • ヒューリック株式は同社との関係構築に活用することが当社の企業価値向上に資する
  • 過去10年に普通配当を引き上げ、記念配当を実施するなど株主還元に務めている。収益力を持続的に強化させ、長期安定的に業績に応じた配当を行うことを基本方針とする

 この回答を見ていかがでしょうか?私はこれを見て、この程度の意見で株主を説得できるのかなという印象を持ちました。理由は次のとおりです。

  • 政策保有株式の保有の合理性の検証方法が不明。CGコードの下、政策保有株式は縮減の方向であり、保有の合理性の検証が資本市場から求めれている現状に鑑みますと、検証の方法(定量検証・定性検証)についてある程度つっこんで記載する必要があるのではないでしょうか?
  • キャッシュの用途ですがM&Aをするとか色々と書いているのですが総花的で具体性に乏しいのでは?M&Aをあげるのであれば、具体的な領域やターゲットを示す必要があります。単にM&Aをするといっても、そもそもM&Aは単なる手法であって、どの領域を強化するのか、また何故自前ではできないのか、今後どういう相手を買収先としているのかなどの開示が必要ではないでしょうか。今回のように投資ファンドからつつかれている「有事」の場合となれば、抽象的な内容をあげるのではなく、もう少しつっこんだ開示が必要になるように思います
  • 内部留保の拡充が必要ということであるが、その程度まで必要であるのか応えていないのでは?仮にキャッシュが100あるとすると、40が事業運営に必要、30が成長投資に必要、20は将来の不足自体に備えて必要、残り10が株主に還元というような説明が必要と思います。この点は、明確に文章で説明することは難しく、具体的化することによるリスクも承知していますが、こういう有事の局面だとある程度具体的な数値等の基準を示す必要があるように思います。

などなど色々とありますが、果たしてこの行方はどうなるのでしょうか。

個人的には、投資に対してニュートラルな立場にある機関投資家は、帝国繊維の意見を見てスパークスの株主提案の合理性を判断するように予想します。

問題は、個人株主です。日本の株式市場の17%は個人株主ですが、個人株主は、一部の超富裕層を除いては、ほとんどが私も含めて中流層の方が少ない自己資金の投資でコツコツやっています(個人でも銀行借入によるレバレッジを効かせて投資をしている稀なケースもありますが)。

で、あればこそ、中流層が少ない自己資金で自分の利を少しでも高めるのであれば、しっかりとファイナンスコーポレートガバナンスの知識・知恵を身に付けて株主提案の合理性を判断しないと利は得られません。 

議決権行使助言会社であるISSが株主提案に賛否のいずれの推奨判断をしたのか、またそれなども踏まえて、国内外の機関投資家がどういう判断をするのか関心のあるところですので、また、本件に関して報道があったような場合には、ブログで紹介したいと思います。

次回は、最近良く耳にすることが多くなりましたTotal Shareholders Return(TSR=株主総利回り)について紹介したいと思います。