中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

IR優秀企業をその会社の株主はどう見ているのでしょうか?

先日の日本経済新聞に日本IR協議会が2018年度のIR優良企業14社を発表したとの記事がありました。優秀企業大賞はエーザイが受賞しました。

エーザイはIR活動に力を入れている企業で有名です。新聞記事によれば、トップが経営方針や戦略の説明に積極的で、情報開示レベルを引上げている点が評価されたとのことです。要は開示が上手と評価されたようです。

しかし賞はそれとして、エーザーイのステークホルダーである株主は、エーザイをどう評価しているのでしょうか。

投資家が会社をどう評価するかの指標の1つは株価です。投資の魅力がなければ、株式を売り、結果株価が下がりますし、魅力や将来性があると考えれば、株式の買いが増え株価が上がります。しかし、株価は短期投資の目線で変動するので、必ずしも中長期目線からの会社の評価にはそぐわない気がします。

では他に何があるかといいますと、株主総会の会社提案議案に対する賛成率があります。会社提案議案は、取締役会が決定するものですが、その経営陣の判断に反対する場合は、議案への反対率が高いということです。

では、エーザイの場合はどうでしょうか?

株主総会議案の賛成率は、上場企業が株主総会後にEDINETに提出する臨時報告書を見れば分かります。本年はエーザイは取締役選任議案を提案しており、2018年6月21日付でエーザイは臨時報告書を提出しております。本年の株主総会では、取締役11名選任の件が付議されています。

勿論全員承認可決はされていますが、取締役11名各人によって賛成率にバラツキはありますが、賛成率は、最低が74.30%で、最高が89.69%となっています。11名の賛成率を単純合算して11名で割った場合、84%です。74.30%の最低賛成率は、内藤晴夫氏という方でエーザイの経営トップの方になります。また、70%台の賛成率にとどまる方が3名もいます。

さて、この結果を高いと見るか低いと見るかですが、これは明らかに低いといえます。不祥事があった企業であれば、その企業の取締役選任議案への賛成率が低いのは良くあるのですが、そうでない企業は90%台はないとかなり低いといえます。

エーザイは賛成率が低い理由は開示しておりませんので分かりません(というか開示している企業などまずありませんが)、推測するに、買収防衛策のスキームによるものではないかと思います。エーザイは買収防衛策を導入しており、そのスキームは株主総会の承認を経ることなく、取締役会の決議で導入・継続できるものです。買収防衛策を有する企業の経営陣に機関投資家が反対することは良くあることですので、これがエーザイの経営陣の選任率が低いことに関連しているように推測します。

いずれにせよ、エーザイの株主は役員選任議案に相当数反対しているといえます。IR大賞により開示は評価されているが、肝心の経営陣には、株主、の一定数が反対しているということです。

これは私の個人的な考えですが、役員の経営体制に反対している中、大賞受賞というのは少し違和感を感じます。開示というものは、会社の事業運営の結果を書面にして公表するものであり、経営陣に反対する株主が多い中、経営陣による事業経営の成果を書面で開示した内容が評価されるというのは、見方によっては、とてもおかしな話です。

最近は何でも開示せよという動きにあります。開示が上手な会社は評価され、開示がうまくない企業は評価されないということもあります。開示が、外部のよくわからない大学の教授や評価機関に評価されるより、会社のオーナーである株主に評価されることを会社はまず最優先に考えることがとても大事かと思います。

一般の方は、臨時報告書などを目にすることはないので、全く気にとめていないかも知れませんが、このように整理していくと疑問に感じることも色々とあるかと思います。