中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

個人投資家目線からの改訂CG報告書の読み方:政策保有株式の議決権行使基準

本年6月1日改訂のコーポレートガバナンス・コード(改訂CGコード)に基づくコーポレートガバナンス報告書(改訂CG報告書)の提出期限は本年12月末までとされていますが、上場企業各社の来年の定時株主総会の目玉は間違いなく、改訂CGコード対応かと思います。

改訂CG報告書もいくつか提出されていますが、今回は、個人投資家の目線から見た投資先企業の改訂CG報告書の見方について、政策保有株式の議決権行使基準について説明したいと思います。

ご存知の個人投資家の方も多いかと思いまますが、改訂CGコードでの規定は、政策保有株式に対する「具体的」な議決権行使基準を策定し、その内容を開示するとともに、策定した行使基準に従い適切に議決権を行使せよということです。「具体的」というのがポイントになります。

従前より基準の策定と開示は求められていますが、開示内容が極めて抽象的内容で、適切に投資先企業の株主総会で議案を精査して議決権を行使しているのか分からないという批判が改訂の背景にあります。

改訂CGコードを踏まえた改訂CG報告書の開示ですが、最近ですと、メガバンク以外の事業会社(東証1部の大手企業)の中では、花王が8月30日に次のような内容で開示をしています。

「政策保有株の議決権に関しましては、適切なコーポレート・ガバナンス体制の整備や発行会社の中長期的な企業価値の向上に資する提案であるかどうか、また当社への影響等を総合的に判断して行使します。必要に応じて、議案の内容等について発行会社と対話します。2017年度に開催された保有先会社の株主総会に対する議決権に関しましては、当該会社の企業価値を毀損する懸念のある提案は無かったため、全て賛成行使しました。」

個人的には、記載が少し抽象的な気がします。議案毎に会社が判断するポイントは異なると思います。例えば、取締役選任議案であれば、不祥事の有無、剰余金処分議案であれば、過去数年純損失の場合には反対をする、配当性向が著しく低い場合には反対をするなどがあるはずです。

花王は詳細な議決権行使基準を内規としておそらく持っていると推測されますが、詳細な開示までは控えた気がします。

ちなみに、みずほフィナンシャルグループ三菱UFJフィナンシャルグループの開示内容を見ますと重点的に検討すべき具体的な議案を列挙しています。ただし、列挙しているだけで、これらの議案に対するより具体的な判断要素までは開示していません。

さて、個人投資家は改訂CG報告書に記載されている政策保有株式の議決権行使基準をどのように見たらよいでしょうか。次の3つの視点かと考えます。

1 議決権行使基準が議案毎にどういう基準をとっているか分かりやすくなっているか
2 分かりやすくなっていない場合には、どういう議案が本年は投資先企業から提案されたのか
3 その議案に対してどういう行使基準に従い、賛否のいずれを行使したのか。特に、不祥事があった企業の役員選任議案に対する賛否行使、配当性向やDOEの低い企業の剰余金の処分議案に対する賛否行使はどうであったのか。また、どうしてそういう行使をしたのか

このような観点から政策保有株式の議決権行使の適切性を企業に投げかけることが出来るように思います。

要するに政策保有株式を持つにしても、適切な議決権行使をしていないのであれば、資本市場の要望にこたえていないのではないかということです。

本日は、改訂CGコードのうち、議決権行使基準に焦点を当てましたが、次回以降、また改訂CGコードの実務対応について気付いた点があれば、ブログに書いてみたいと思います。