中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

「新しい経済政策パッケージ」の下での政策保有株式の解消の予想

先日、「新しい経済政策パッケージ」についてブログで簡単に触れましたが、本年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」の全文について確認をしました。

人づくり革命、生産性革命の2つに大きく分かれていますが、生産性革命について少し触れたいと思います。

生産性革命の中で、いくつか項目がありますが、「企業の収益性向上・投資促進による生産性革命」の項目があり、さらにその中で「コーポレート・ガバナンス改革」があります。

2018年6月の株主総会シーズンまでに、投資家と企業の対話の深化を通じ、企業による次の取り組みを促すためのガイダンスを策定するとともに、必要なコーポレートガバナンス・コードの見直しを行うというものです。

1.経営環境の変化に応じた、事業からの撤退・売却を含む、事業ポートフォリオの機動的な組替えなどの果断な経営判断(事業ポートフォリオの見直しに関する方針や実効的な見直しプロセスの確立・説明の促進)
2.企業が保有する現預金等の資産の設備投資、研究開発投資、人材投資への有効活用
3.独立した指名・報酬委員会の活用を含め、CEOの選解任・育成、経営陣の報酬決定
に係る実効的なプロセスの確立、並びに、経営陣に対する独立社外取締役による実効的な監督・助言
4.政策保有株式の縮減に関する方針の明確化及び政策保有株式の縮減・売却に対する「保有させている側」の理解
5.年金基金のアセットオーナーとして期待される機能を発揮及び母体企業による支援

この中でも、注目すべき事項は4にある政策保有株式と思います。

政策保有株式とは、いわゆる持ち合い株式であり、投資収益ではなく、自社との取引の維持・拡大の関係強化等を目的に保有するものです。投資先企業の会社提案に反する議決権行使を行うことはなく、投資先企業から見ると安定株式といえます。

政策保有株式に関する最近の課題意識は、政策保有株式が多いと安定株主が多いことにつながり、投資先企業が株主からの圧力や脅威に晒されることなく、株式市場が本来求められる機能を果たしていないのではないかということです。

要するに、政策保有株式についても、投資先企業の会社提案議案に対して、中立的な観点から賛成・反対票を投じれば問題ないのですが、そうでなく、「常に賛成票」を投じる結果、市場の健全性を損うものとされていることです。

政策保有株式については、コーポレートガバナンス・コードでは、保有企業は方針を開示して、保有するねらい・合理性についての説明が求められています。これに従い、各社保有する目的をコーポレートガバナンス報告書などで開示していますが、文言が画一的であるのが現状と思います。

今回の提案では、政策保有株式を「保有させている側」の理解とあります。つまり、実際には、政策保有株式は、投資先企業からの要請があり保有することがほとんどですが、実態に即して、「保有させている側」である投資先企業が、どうしてそうしているのかその理由について明確にせよという流れになると思います。

保有している側」がいくら理由を開示したところで、実態は「持たされている」のだから、「保有させている側(投資先の企業のことです)」がその理由を明示せよという趣旨と思います。

政策保有株式は、投資先企業の株式を1%以下保有するケースが多いですが、この程度の保有比率では投資先企業には何ら会社法上の有効な権利行使は出来ません。このため、取引上の関係から保有するということは「どういうこと?」と前から感じていました。

最近の政策保有株式の議論を見ると、今後数年で政策保有株式の解消は確実に進むように思えます。

とすると企業では何が困るかということですが、安定株主が減少するわけですから、不透明な経営や一般株主に十分な説明のつかない会社提案を株主総会で提案した場合、その提案が通らなくなる、または反対意見が多く出るということになります。

来年6月の総会シーズン前にガイダンスが出るということですので、企業のコーポレート部門の方は、今後注視すべき事項と思います。