中長期的な企業価値向上のためのコーポレートガバナンス・アドバイザー / 長期での中小型株の割安株投資情報

最近のコーポレートガバナンスと資本市場の動向を踏まえ、上場企業実務の視点から中長期での企業価値向上に役立つ情報分析・発信をしていきます。個人投資家のコーポレートガバナンス力の向上による「意思のある投資」に役立つ情報発信もしています。また長期での割安株投資の情報も

日経IR・投資フェア2017に参加しての感想 - 中堅上場企業(中小型株)のIR説明と一般個人投資家

先日、東京ビックサイトで「日経IR・投資フェア2017」が8月25日(金)・26日(土)の2日間にわたって開催され、私は8月26日(土)に朝から参加しました。

同フェアでは伊藤ポートでお馴染みの伊藤邦雄氏(一橋大学教授)や金融庁スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会メンバーほかの講演会があり、講演会に参加するとともに、40社ほどの企業がブースを設置し、一般個人投資家向けにIR説明を行っていましたので、数社の企業ブースでIR説明を聞きました(講演会の参加が主目的でした)。

講演会の内容は、最近のトレンドであるESG投資に関するものであり興味深い内容でしたので、後ほどブログでも紹介させて頂きますが、今回は企業ブースのIR説明を聞いての感想を書きます。

帝人や電鉄会社といった大手企業も数社出展していましたが、大部分は時価総額が数百億円規模の中堅上場企業でした。ブースを訪問した各社は、パワーポイントを用いて自社の事業概要について説明をしており、最後に株主還元ということで配当状況について説明していました。

各社とも事業の概要についての説明が主でしたが、批判的な観点から見た場合の私の印象は、次のとおりです。

・各社安定配当を継続との説明に終始し、配当性向について十分な説明がない
・ネットキャッシュが潤沢であるにも関わらず、キャッシュの使途の説明が一切ない
ROEの説明がない、またはあっても不十分

・業績数値がPLの売上高、経常利益の単純数値のみ

・ネットD/Eレシオなどの指標も説明なし など

説明後に何社かの担当者に「キャッシュの使途は何かあるのか」「ROEも低く、配当性向が低いのであれば、今後は増配などを検討することになるのか」「PBRが低い(=株価が低い)ようだが、来期の業績が好調である中、何が原因なのか」といったことについて質問をしてみました。

1社は説明者が手元に財務資料をもっていたようで、拙いながらも積極的に回答をしていましたが、残りは、説明会で質問が出るとは予想していないような様子で、そもそもキャッシュリッチの意味やROEもどこまで理解出来ているか不明な様子でした。

説明者のプレゼンの様子からして、恐らくその程度の知識しかないのであろうと想像しており、特に驚きはなかったのですが、1社少し驚いた回答がありました。

その企業は業績好調で、内部留保が大きくかつキャッシュリッチですが、今後も現状と同じ安定配当を継続するという説明でしたので、「海外機関投資家が増えたら配当増を検討する必要もありますよね」と質問をしたところ、「そういう外圧があればそうだが、今は外国人比率は2~3%程度でそういう状況にないので考えていない」とのことでした。

しかし、これは回答としては「NG」かと思います。

外圧があれば検討する(実際にはそうなのですが)のではなく、回答としては「設備投資やM&A等の成長戦略を考えているので、手元資金を増やしており、従い、株主が誰であっても配当性向は今のところ変える予定ません」というのがあるべき回答かと思います。

ここで視点をかえますが、そもそも投資フェアに参加している個人投資家はどのような方でしょうか。

ある企業の隣のブースで、某投資会社がROE株主資本比率)の説明をしており、偶々耳にしたところ、その内容は「ROEとは何であるか」といった極めて初歩的な説明であったため、こんなことをわざわざ聞く個人投資家がいるのかと思い目を向けたところ、驚いたことに多くの参加者が熱心に耳を傾けておりました。

それを見て、会場にいる方は、財務諸表や株式指標の「イロハ」の「イ」も知らず投資しているのだろうなと思いました。

昔、ある投資ファンドマネジャーが、個人の大部分は決算短信などの財務数値の詳細を読む能力もなく、従って読んでもおらず投資をしているという記事を読んだことがあります。恐らく株価チャートあたりを見て、株価のトレンドだけで判断しているのでしょう。

勿論、企業を経営して成功されている中小企業のオーナーの方や資産家の方は、そもそも投資資金が潤沢にあるので、そのような細かい財務数値など知らずとも数千万円から数億円を、優良な安定配当企業にポンと投資するだけで十分なインカムゲインを得られます。しかし、圧倒的大多数を占める普通の個人投資家は、わずかな資金を少しでも増やしたいと思い投資するのですから、投資のリターンの精度を高めるためには、細かい財務分析が必要になるように思います。

ここで話は元に戻りますが、この程度の知識しかない個人投資家が相手であれば、先ほどの企業のIR担当者の回答であっても個人は何もおかしいとは思わないでしょう。

しかし、資本市場と投資家との対話が変わる大きな変化の中、先ほどの回答をした中堅企業のIR担当者は、もう少し勉強をする必要があります。

もし個人的投資家にも安定株主として企業のファンとなって欲しいということでこのフェアを開催しているのであれば、企業も業績の詳細、個人投資家の最大の関心事である株主還元や余剰資金の使途、株価対策などに十分な説明をすることが必要になるのではないでしょうか。

そうしないと、少しでも株価が上昇すれば、それが理論株価を下回っていても個人投資家は株式を売却する方向に向かい、仮に物言う株主が増配の株主提案をしたような場合には、何の躊躇もなくこれに賛成を表明することになります。

安定株主(自社のファン)を増やすという意識で個人投資家フェアを開催しているのであれば、少なくとも私が説明を聞いた企業は、今一度自社の資本戦略や対外的な説明内容について考え直す必要があるような印象を持ちました。